夏子のクリスマス


 冬休みも間近に迫ったある日の放課後のことである。少年と少女がいつもの道を下校していた。
「クリスマス・パーティ?」
 眼鏡をかけた少年・伊能せいこうが尋ね返した。
「うん。24日の夜にね、お店を早じまいしてパーティやろうってママが言ってたの。クラスの友だちを呼ぶから、伊能くんも妖岩くんと氷雅さんを連れていらっしゃいよ」
 そう元気いっぱいに話すのはせいこうのクラスメートの香山夏子である。三つ編みを両横で輪の形に整えた髪型が、よく似合っていて可愛らしい。
(ホントは伊能くんたちだけでいいんだけどな)
 夏子は心の中だけでそっと呟いた。思春期にさしかかった少女の淡い思い。恋だとかそういう明確な意識があるわけではないが、近所に住んでいて小さい頃からよく一緒に遊んでいたせいこうに対しては少なからぬ好意を寄せていた。
 その思いを少し前までは恥ずかしげもなくストレートに表現していた。それは、せいこうのことを特別な存在として認めながらも、幼馴染みという枠を出ない程度の思いだったからかもしれない。
 だが、いつの頃からか夏子はせいこうにまっすぐ接することをしなくなった。いや、できなくなったと言った方がいい。それでもいつも傍にいて姉のように何かと世話を焼いたりするのだが、傍目にはどこかよそよそしくなったような印象を与えるのだ。その実、心の中では以前にも増してせいこうのことを意識している。夏子にもそのことはわかっていた。だが、わかっているからこそ今まで通りにストレートに思いをぶつけることができなくなったのだ。
「どうしたんだ、香山?」
 俯いて何かを考えている様子の夏子を、不思議そうに窺いながらせいこうが呼びかける。せいこうとて夏子に対してそれなりの感情を抱いてはいるのだが、最近少し冷たさを感じさせる夏子の態度に、彼女が自分から離れていくような寂しさを感じている。夏子の内面の変化になど気づく由もない。少女の成長は少年よりも早いのである。夏子は、内心を悟られないことにホッとする反面、少々の焦れったさも感じていた。
「あ!? いや、だからね、どうせ伊能くんたちは暇でしょ? だからきっと来てよね」
 我に返った夏子は顔をほんのりと赤く染めながら早口で言い切った。
「暇で悪かったな」せいこうは苦笑を浮かべながら言い返した。「……でも、氷雅さんたちも連れてっていいの? 何かロクなことが起こらない気がするんだけど……」
「いいじゃない。忍者の里で育ったんだったらクリスマスも知らないと思うし、楽しんでもらえるわよ、きっと」
「妖岩はともかく氷雅さんは知ってるんじゃないかな。バレンタインだって知ってたし。……っていうかバレンタインの後のクリスマスなのに何でまだ5年生なんだ?」
 せいこうが何気なく危険な発言をしている一方、夏子は何かに気づいたように押し黙った。
 そっか、バレンタインか……。そう言えばあの頃からよね。伊能くんに今までみたいに普通にできなくなったの。
 毎年、せいこうに渡していたチョコレート。今年(?)は母に教えられながら初めて手作りのチョコに挑戦してみた。自分でもなかなか上出来だと思っていた。夏子はそのチョコを持ってせいこうの登校を待ったのだ。
 だが、いざ顔を合わせてみると何故か渡せなくなってしまった。せいこうと一緒にやって来た妖岩には気軽に渡すことができたのに、せいこう宛のものは取り出せなくなってしまった。今までこんなことはなかったのに。
 そこに追い打ちをかけるような出来事が起こった。チョコを人前で渡すために学校に現れた氷雅は、せいこうに巨大なチョコを渡しただけではなく、せいこうの頬にキスまでして見せたのだ。
(氷雅さん……か)自分より6つほども年上の女性のことを思い浮かべてみる。(まあ、あれは伊能くんの顔を立てるためにわざとやったんだろうけど……)
 だが、あのおかげでますますせいこうにチョコを渡せなくなったのは確かだ。挙げ句、学校帰りにせいこうにチョコを見られた夏子は……別の男の子にあげるつもりだったと……嘘をついた。
「香山……? 今日はどうしたんだ?」
 せいこうの言葉に、ハッと我に返る夏子。
「ま、まあ、そういうことだから。よろしくね。じゃ、また明日」
 ちょうど家である喫茶店に着いたところで、手を振って店に入っていった。
「あ、ああ」



「『苦しみます』? 何ですか、それは? 若も苦行をなさるのですか?」
 ……知らなかったようだ。ボケているのだろうか、とんでもない聞き間違いをさらりと言ってのけるのは、せいこうより年上の、それでもまだ十分に少女と呼べるような年頃の女性である。
 艶々とした髪を肩口で切り揃え、切れ長の瞳が色っぽいその少女こそ、乱破、すなわち忍者の一族の氷雅。一族のしきたりとしてせいこうに仕えている。ちなみに、主人ということになっているせいこうでさえ彼女の苗字はわからない。もしかしたら単に聞かれないから言わないだけなのかもしれない。どこかで「九能市」と名乗っていた気もするが、本名かどうかは定かではない。
「クリスマスだよ、ク・リ・ス・マ・ス。キリストって人の誕生日をお祝いする日なんだ」
「キリスト……では伴天連(ばてれん)のお祭りなのですね。若も切支丹(きりしたん)だったのですか?」
 一応は紛れもない現代人のはずだが、氷雅の知識は妙に時代がかっている。育ちのせいなのだろうか?
「いや、そういうわけじゃないけど……とにかくクリスマスにはパーティしてケーキを食べてプレゼントをもらうってことになってんだよ」
 とは言え、せいこうも所詮は小学生。クリスマスの認識などこの程度である。
「なるほど。それで香山様のお店でパーティをなさると?」
「そういうこと。で、ふたりも連れてこいってさ。妖岩はどうだ? 行きたい?」
 せいこうは横にいる小さな子供に話を振った。氷雅の弟で、これまたせいこうに仕える乱破・妖岩である。長い白髪とつり上がった大きな目が少々恐いのだが、背丈はせいこうの半分ほどしかなく、少年と呼ぶのも躊躇われる。意外と(?)せいこうのクラスの女の子には人気が高い。「かわいい」のだそうである。すっかり洋服を着慣れてしまった姉の氷雅と異なり、妖岩はあくまで忍び服を着続けている。
「…………」
「行きたいと申しておりますわ」
「いつもながらよくわかるね……」
「長いつきあいですので」
「そう……」



「ところで若、先程プレゼントと仰いましたが?」
 唐突に話題を変える氷雅。
「え? う、うん、サンタクロースっていうおじいさんがね、眠ってる間にプレゼントを持ってきてくれるんだよ。あ、パーティに行く時は香山に何か持って行った方がいいかなあ」
「それでは私どもにお任せください。若のためにも香山様には喜んでいただかなくてはなりません。さあ、妖岩、参りますよ」
「…………」
 氷雅は洋服を脱ぎ払い、下に着ていた忍び服を露わにすると、妖岩を促して出て行こうとした。
「待って」せいこうがふたりを制する。「予め言っとくけど、白いハチュウ類とか怪しげな薬とかはダメだからね」
「そ、そのようなことは決して……」
 言いながらも氷雅は視線を逸らす。
「……」
「……」
「…………」
「その顔はやっぱり考えてたなっ!!」
「乱破一族の主君となられる若には、他の方が思いもつかないようなものをと……」
「普通のものでいいんだよ、普通のもので!」
 せいこうは泣き崩れる氷雅(もちろん泣きマネ)に激しく突っ込んだ。
「もういいよ。自分で何か用意するから」
 そう言ってせいこうは机の上の貯金箱の蓋を開け、ひっくり返した。
 チャリーン。寂しい音を立てて数枚の硬貨が転がりだした。総額275円……
「……」
「……」
「…………」
 気まずい沈黙が流れる。
「やはり若、我々にお任せいただくしかありませんわねっ!!」
 ホホホッと笑いながら氷雅が得意げに言った。
「じゃ、じゃあ僕も一緒に探すよ。任せっきりなのも怖いし……」



 数日後、2学期が終わって冬休みに入ったせいこうは氷雅たちと3人で列車に乗っていた。列車代をどうやって捻出したのかなどと突っ込んではいけない。
「雪の花?」
「はい、これより向かう山で、吹雪の夜に咲くと言われている幻の花でございます。その花を手にしたものには幸福が訪れると言い伝えられております」
 そう説明する氷雅にせいこうが感心したように頷く。
「珍しくまともそうな品物だね。それなら安心して香山にあげられそうだ」
「『珍しく』というのが少し気になりますが……喜んでいただけて何よりです。ですから若、捜索は我々に任せて待っていてくださればよろしいのに……」
「いや、香山にあげる物だからさ、やっぱり自分で探したいというか、ほら、その……」
 照れたように呟くせいこう。
「何とご立派なお心がけ! さすがは我らの主君でございます。感服いたしました!」
「…………」
 少し芝居がかった口調の氷雅と無言ながらも本気で尊敬しているらしい眼差しを向ける妖岩。
「そ、そこまで言われると何か恥ずかしいな……」



 空いていた車両に数人の若者が団体でやって来た。
「お、こっちは結構空いてるぜ」
 小柄な目つきの悪い男がそう言いながら3人の横を通り過ぎ、席を確保する。その後をぞろぞろと男女がついていく。長い黒髪の円らな瞳の少女、2メートルはあろうかという大柄な男、金髪に染めた髪がスーパーサ○ヤ人のように逆立っている少女。それに続いて黒髪の優しそうな少女とぼさぼさの黒髪に赤いバンダナの青年。さり気なく手をつないでいるあたりがふたりの関係を示している。仲の良さ気なふたりを恨めしそうに見ている少女は銀髪で前髪だけが赤くなっている。後ろから伸びている尻尾は攻撃態勢の犬のようにピンと立って……
「狼でござる!!」
 うおっ、突っ込まれた。
 ……コホン。気を取り直して、その後ろには鮮やかな金髪を9つの房に束ねた少女に、同じく金髪の青年。青年の方はどうやら西洋人らしい。さらにおかっぱ頭のほんわかとした少女……と言っていい年齢ではないが、少女にしか見えない女性と髪の長い青年が後に続く。そして最後に艶やかな長髪の少女。割と普通そうに見える……机さえ抱えていなければ。
(机……? いや、そういう問題じゃなくて何なんだ、この人たち?)
(新手の忍びでしょうか?)
(…………)
 新たに入ってきた団体客が気になりながらも、直感で関わり合いにならない方がいいと感じるせいこうたち3人。
 ドキドキしている3人の様子も知らぬげに各々席に座りながら、若者たちは会話を始めた。
「クリスマスに温泉なんてな。横島もなかなか面白いこと考えつくじゃねえか」
 小柄な男が言った。
「ホントに……こういうクリスマスも悪くありませんわ」
 円らな瞳の少女が同意を示す。
「この時期はレストランとかは予約でいっぱいだろ? 魔鈴さんは空けてくれるって言ってたけど忘年会もやらしてもらうからな。クリスマスまで占領しちゃ悪いしな」
 答えるのは赤いバンダナの青年。
「今年はいろいろ大変でしたからね。温泉でのんびりするのもいいですよ」青年に寄り添う少女がニッコリと笑いながら言った。「……おねえちゃんと美神さんも来ればよかったのに」
 夏前から東京に出てきていた彼女の姉はどうやら帰省中のようである。そして元上司の女性は、興味がないと一言で切り捨ててしまい、とりつく島もなかった。何やら知り合いの男性から誘われていたようで、豪華なディナーでも楽しむつもりかもしれない。
「先生、拙者の隣に座るでござる!!」
「ダメ〜〜横島クンは冥子の隣に座るの〜〜」
「シロ、あんたクリスマスくらい気を利かせなさいよ」
「うう……冥子はん。どうせ、どうせボクなんか〜〜」
「ったく、鬼道先生もいい歳して泣いてんじゃねえよ」
『青春よね〜〜。ほらほらピートくんもこっちにおいでよ』
「あ、はい、じゃ失礼します」
 机の少女は一部の荒れているメンバーを「青春」の一言で片付けてしまうと、隣に座った金髪の青年に皮をむいた蜜柑を渡す。丁寧に白い筋まで取り除いてある。
「あ、ありがとう」
 ふたりは隅っこでさり気なくラブコメ(?)を始めたようだ。長生きのふたりのこと、何十年かかるかわからないラブコメだが。
 若者たちの様々な思いを乗せて、列車はガタゴトと走っていく。ここで取りあえず彼らの出番は終わり。尚、元ネタに「GS」を入れたいだけの理由でこのシーンを入れたわけでは決してない。……たぶん違うと思う。違うんじゃないかな……ごめんなさい、許してください。
「わっしのセリフは〜〜?」



「はあ〜〜っ、何だったんだ、あの集団は?」
 列車を降りたせいこうたちは若者たちの集団から飛んでくるただならぬ空気に精根尽き果てていた。
「あのバンダナの男、どこかで会ったような気が……。あと少しで思い出せそうなのですが……。いえ、思い出してはいけないような……」
 氷雅は言い知れぬ悪寒を感じて震えていた。何らかのショックで記憶障害が起こっているのだろうか。
「…………」
 件のただならぬ若者たちの集団は駅を降りて送迎バスに乗り込んでいった。
「で、僕たちはこれからどうするの?」
 気を取り直してせいこうが氷雅に尋ねた。
「はい。雪の花が咲く山まで……徒歩で登ります」
「……」
「……」
「すみませんが氷雅さん、今何と?」
「徒歩で参ります!」
 もはや聞き間違いようもないしっかりとした口調で繰り返す氷雅。
「吹雪が来るんだよ?」
「だからこそです。吹雪の中、車では身動きがとれません」
「吹雪の中で登山なんてしたことないんだけど……」
「ですから足手まと……もとい、お任せくださいと申し上げたのです」
「そうだけど……寒いのヤだな〜〜」
 さっきまでのやる気はどこへやら、あっという間に意気消沈のせいこうとさり気なく痛いことを言おうとしている氷雅。
「…………」
 妖岩が手に何かを持って何やら必死にせいこうに訴えかけている。
「おお、それは!?」氷雅が反応を示した。「秘伝の『飲むカイロ』ではありませんか。お前にしてはおもしろ……もとい、よい物を持ってきましたね」
 言葉の割にクスクスと不敵に笑っている氷雅にせいこうは不安を隠しきれない。
「若、これをどうぞ。ささ、ググッと一杯」
 不安なせいこうだったが寒さに負けて結局差し出された薬を飲んだ。寒さは人の思考能力を奪うものである。
 薬を飲むと体が中からポカポカと温まってくるのがわかった。
「おおっ、寒くない! これなら逝ける……じゃなかった行ける!!」
 むしろ熱いくらいなのか、それまで着ていたアノラックを脱ぎ捨てるせいこう。だが気づくべきだった。妖岩が作る薬は下水を生き抜いたワニを簡単に仕留めてしまうほどの危険物であることを。
 ボッ!!
 みるみる上気して真っ赤になったせいこうの体が火に包まれた。
「あ、あちーーー!!」
 火だるまになって転げ回るせいこう。(注:危険ですのでマネをしないでください)
 妖岩たちは水をかけて必死にせいこうを助けようとするが、文字通り焼け石に水というもので一向に効果がない。どうやら「逝ける」は誤字ではなかったようである。
「妖岩、急冷剤を!!」
「…………!!」
 氷雅の叫びに、やっと思い出したように懐から丸薬を取り出し、燃え上がっているせいこうに飲ませた。「飲むカイロ」と対の薬品「急冷剤」である。主に中和剤として用いる。期待通りやがて火は鎮まった。
「危ないところでしたわね、若」
「じょ、冗談じゃないよ……」
 ところで、水を大量にかけられた上に発熱効果が中和されたのである。当然、
「さ、寒い……! さっきまでと比べものにならないくらい寒い!!」
 慌てて脱ぎ捨てたアノラックを羽織るせいこう。
「困りましたわね。これでは山に登れません。さすがにここに放置……もとい置いていくわけには参りませんし」
 言い直しても大して変わっていない、などと突っ込む余力は今のせいこうにはない。
「仕方ありません。こうしましょう」
 そう言って氷雅は指先でせいこうの体を数か所突いた。
「秘孔を突きました。これで寒さは感じなくて済むはずです」
「ホ、ホントだ。寒くないぞ」
「ただし! お気をつけください。あくまで寒さを『感じない』だけですから、調子に乗っていると知らないうちに凍傷になっているということもありえますよ」
 忠告するように言いつつも、ホホホと笑っているように見えるのは何故だろうか。
「手遅れになれば手足の切断という可能性も……」
 抜き身の刀を光らせながら言うその目はどこかに逝ってしまっているようでもある。
「…………」



 そんなわけで「雪の花」探しを始めたせいこうたちは……。





 いきなり熊に追われていた。

「だああああっ!! 何で冬眠中の熊を叩き起こすようなことをするんだあああっ!!」

「雪の花はあのような洞窟の奥に咲いていることが多いのですっ!!」
「だからって眠ってる熊をひっくり返して調べることはないだろっ!!」
「…………!!」
 などと言っている間にも熊は追いすがってくる。とにかく大きな熊である。
「伝説の赤カ○トかも知れませんね」
「そんな……作者もうろ覚えのネタを」
「かくなる上は!」
 氷雅は立ち止まって振り返った。
「乱破忍法・死んだフリ!!
 パタン。氷雅はその場に倒れた。
「アホかああああっ!!」
 叫びながら逃げ続けるせいこうと併走する妖岩。氷雅は……倒れている間に熊に踏みつけられたようだ。
 妖岩ひとりなら熊くらい振り切れただろうが、せいこうを守らねばならない以上、そうはいかない。追いつかれると判断した妖岩は刀を抜いて熊の前に立ちはだかる。大声を上げて吠える熊に飛びかかるが、その腕に振り払われ、そのまま雪に頭から突っ込んでしまう。当たったのが爪のついた手先でなかったのは幸いというものだろう。熊は勢いに任せて鉤爪を振るってせいこうに襲いかかった。
「う、うわああああ!!」
 と、人影がせいこうを突き飛ばしながら鋭い鉤爪を刀で受け止めた。
「大丈夫ですか!? 若、妖岩!?」
 氷雅である。背中に熊の足跡がついているのはご愛敬といったところだろうか。
「よくも私を踏み台にしてくれましたわね!?」
 怒りを滲ませながらそう言うものの、熊の力は強く次第に押されていく。しかも、熊の片腕はまだ空いている。熊は空いている方の腕を振るって氷雅を襲った。間一髪で後ろ飛びに回避する。
 仁王立ちになった熊は一際高い声で吠えた。その大きく開いた口に何かが飛び込んだ。氷雅が振り返ると、妖岩がものを投げた後の姿勢で立っていた。
 再び熊に視線を返すと、熊は苦悶の声を上げながら氷柱と化していった。妖岩が熊に飲ませたのは急冷剤だったのである。(注:動物虐待です。マネをしないでください)
「ほっ……。よくやりました、妖岩。熊にはこのまま冬眠を続けてもらいましょう」
「し、死んじゃうんじゃないの……?」
 起き上がったせいこうは小声でそう言ったが、ふと視線の先にあるものを見つけた。
「氷雅さん! これ……!?」
 氷雅がせいこうの指し示す先を見ると、雪の結晶のような形をした白い花が咲いていた。中心から伸びる六本の枝に小枝がたくさん分岐している樹枝状六花結晶と呼ばれる形である。その透き通るような花びらは水晶とも見える。
「間違いありませんわ! 雪の花です。初めて見ました!! 美しいものですね」
 普段冷静な氷雅が珍しく感動を露わにしている。その横で妖岩も大きな目を更に見開いてまじまじと眺めている。
「……ちょっと待って。今まで見たことなかったの?」
「ええ、伝説に聞いたことしか」
「じゃあ本当にあるかどうかわからなかったってこと?」
「……」
「……」
「よ、よいではありませんか。こうして実際に見つかったのですから……」
「……そ、それもそうだね」
 言いくるめられているような気がしつつも、確かに見つかったのだから文句はないせいこうである。
「ささ、若。その花を香山様にお届けしましょう」
「う、うん」
 せいこうたちは雪の花をそっと周りの土ごと掘り出すと丁寧にくるんでクーラーボックスに入れた。
「ところで、だいぶ走ったけど、帰り道わかるの?」
「……」
「…………」



 紙の鎖や色とりどりの紙テープ、で飾り付けられた店内にはたくさんの子どもたちが集まっていた。わいわいと賑やかなだが、夏子はひとり、寂しそうにカウンターに座っていた。
「伊能くん、遅いなあ……」
 夏子の母が慰めるように言った。
「何か理由があるのよ。もう少ししたら来るわ、きっと。ほら、お友達とお話ししていらっしゃい」
「うん……」
 伊能が来るまで待つと主張した夏子だったが、1時間待っても現れなかったため、パーティは既に始めてしまっていた。
「よう、元気ないな。伊能がいないからか?」
 クラスメートの丸太町である。夏子がせいこうと一緒にいるといつも現れてからかってくる。それが夏子に対する好意の子供っぽい裏返しであることに夏子自身は気づいていない。
「何よ、丸太町!」
「あいつのことだから、プレゼント買うの忘れて今頃大慌てで探しまわってんじゃねーか?」
「もう! どうでもいいでしょ、ほっといてよ!!」
 つい声を上げる夏子。その剣幕に丸太町は肩をすくめるとクラスメートの輪の中に戻っていった。夏子にもう少し余裕があれば、丸太町が少し悲しげな表情を浮かべていることに気づいただろう。
「クリスマスにケンカなんてしちゃダメよ、夏子」
「……ごめんなさい」
 母親にたしなめられてうなだれる夏子。
(プレゼントなんて……そんなの気にしなくていいのに)
 その時、入り口のドアが鈴の音を立てて開いた。
「ごめん! 遅くなっちゃって!!」
 たちまち夏子の顔が明るくなる。
「遅いじゃない!? 何してたのよ!?」
 怒ったように言うものの、その顔に浮かんだ喜色は隠せない。
「ごめん、これを探しに行ってたんだ」
 そう言うと、せいこうは鉢植えに移し替えた雪の花を差し出した。
「きれい……!!」
「雪の花って言ってね、これを持ってると幸せになれるらしいんだ。香山にクリスマス・プレゼント」
 ボン! そんな音が聞こえそうなくらい夏子の顔は真っ赤になった。
「あ、ありがとう……。こ、これ……私から」
 そう言いながらたどたどしい手つきでせいこうに紙包みを差し出す。
「開けていい?」
 夏子がコクンと頷くと、せいこうは包みを開いた。出てきたのは手編みのマフラーだった。
「ホントはセーター編むつもりだったんだけど……慣れてなくて」
「ううん、ありがとう!」
「遅れてきたかと思ったらもうイチャイチャしてんのか、おめーらは」
 丸太町が割り込んでくる。
「何よっ、丸太町!」
 さっきと同じ言葉だが、さっきのようなトゲトゲした口調ではない。それを聞いて丸太町は一瞬ホッとしたような顔になり、いつもの悪ふざけを始めた。



「妖岩くん、氷雅さん、楽しんでる?」
 夏子とせいこうは妖岩と氷雅のところへやって来た。
「…………」
 妖岩は1本の首輪を夏子に差し出した。氷雅が説明する。
「シロにどうぞ。忍犬養成に使う首輪でございます。犬の神経を刺激して学習能力を高める効果があります。ノミ取り機能も追加しておきました」
「ありがとう。じゃあ私からもふたりに」
「これは伊能家から、ね」
 ふたりもめいめい持ってきたプレゼントを氷雅と妖岩に渡した。
「…………!」
「ありがとうございます!」
 ふたりとも気に入ったようだ。
「今年はいろいろと酷い目に遭ったけど、来年もよろしく」
「我々がいつ酷い目に遭わせたというのです、若!?」
「…………!」
「ま、まあまあ。ふたりとも、来年も伊能くんをよろしくね♪」
「もちろんです! 来年こそは若に天下を!」
「だから何の話だよ!?」
 せいこうたちの会話に夏子がクスクスと笑い出す。それにつられてせいこうと氷雅も声を立てて笑い出した。妖岩は声こそ出していないが顔で笑っている。
「あ、見て見て!! 雪が降ってきたわ!!」
 誰かが窓の外を見ながら叫んだ。
「ホワイト・クリスマスね。この花のおかげかしら」
 夏子の母がそう言いながら夏子たちにウィンクを送った。
 雪はしんしんとクリスマスの夜空を彩り続けた。



     あとがき



 「夜に咲く話の華」の小ネタ掲示板にクリスマス作品として投稿したものです。
 GSは他の皆さんがお書きになるだろう思ったので別の作品で考え、前から書いてみたかった「乱破SS」をネタにしました。「ポケットナイト」も好きなのですが、あれは本編でクリスマスを扱っていましたし。でも、あゆみちゃんとムラマサもネタがあれば書いてみたいですね。
 何となくGSの「おキヌのクリスマス!!」を思わせる展開になってしまったかなあ、とも危惧していますが、それなりに工夫を凝らしたつもりですのでお目こぼしをお願いします。
 尚、ゲスト出演のGSキャラは拙作「GS横島・極楽大奮戦!!」の設定に基づいています。こちらもよろしく。今後の展開の先取りっぽい記述もちょっと入れてみました。ピートと愛子のラブコメは……未定ですがいつか書くかもしれません。20年後くらいに(爆)

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