スクール・ウォーズ!!

「GS横島・極楽大奮戦!!」外伝!?


 どこにでも走っていそうなありふれた国産車が校門をくぐった。その車は『教職員専用』と書かれた駐車場に入って停車し、運転席からひとりの若い男が出てきた。スーツにネクタイ、普段ぼさぼさの髪も心持ち整えてあるような気がする。トレードマークのバンダナは今は外している。
 男は校舎に入ると、その足で職員室に向かった。理事長や校長とは先日会って話をすませてある。今日が六道女学院高等部霊能科の非常勤講師としての「初出勤」というわけだ。
 職員室の前に立つと、軽く深呼吸した。そう言えばつい最近まで職員室なんて呼び出されて説教を受ける場所だったな、なんてことを微かに考えたりする。



「おはようございます!」
 威勢良く挨拶をしながら職員室のドアを開けると、室内にいた教師たちが驚いたように振り返った。
「おっ、来たな、横島クン」
 長髪の男性教師が立ち上がって声をかけてくる。
「おう、鬼道。こんなことになっちまったけど、よろしく頼むわ」
「こっちこそよろしゅうな。助かるで、ホンマ。……それにしてもエライ畏まったカッコやな」
 スーツを着てかっちりネクタイまで締めた横島を上から下まで見回して、苦笑しながら鬼道政樹が言った。
「え、だって授業すんだろ? 普段着で来るわけには……」
「横島クンの担当は実習やで。ジャージでも着てればええんや」
 鬼道はまた苦笑する。
「そ、そうなのか!? 俺、ジャージなんて持ってきてないぞ」
「ほら、支給品。サイズは氷室に聞いといたから問題ないはずや」
 鬼道はそう言って胸に『六女』と刺繍の入った新品のジャージを横島に渡した。
「あ、サンキュ」



「……で、俺の担当のクラスは?」
 職員室内の更衣室で手早くジャージに着替えてきた横島は鬼道に尋ねた。どうせスーツじゃないならといつものバンダナも巻いている。
「ん、二クラス合同でな、3−Bと3−Gや」
 そう言って鬼道は二冊の出席簿を横島に手渡した。
 横島はパラパラと開いて名簿を眺めてみる。
「ふうん……ってこれ、おキヌちゃんのクラスやないか!?」
「クラス対抗二年連続の一位と二位や。出来のいいクラスやで」
「何でそんなクラスを俺に振るんだよ……」
 優等生は苦手だと言わんばかりの表情を見せる横島。きっと今の彼には高校時代のクラスメート、金髪のヴァンパイアハーフの姿が思い浮かんでいるに違いない。
「理事長直々の決定やからな。今日は体育館やで。ほな、ボクは別のクラスで授業あるから。がんばってな、横島先生」
 そう言って横島の肩を叩くと鬼道は職員室を出ていった。



 鬼道の指示通り体育館に向かう横島。開いたままの引き戸をくぐったところで始業ベルが鳴った。二クラスの生徒たちは整列こそしていないものの既に集まっている。賑やかにお喋りをしている様子にはさすが女子校といった雰囲気がある。中には準備運動をしている真面目な生徒もいるが。
 ジャージ姿の横島が現れたのを見ると、生徒たちは私語をやめ、準備運動をしていた生徒たちも集まってくる。
 生徒たちが整列したのを確認して横島は口を開いた。
「え〜と、今日からこの時間の実習を担当することになった横島忠夫……って冥……六道理事、何をしてるんスか?」
 生徒の後ろに見慣れた女性の姿を認めて尋ねてみる。
「んと〜〜理事として〜〜学校の授業風景を視察しに来たの〜〜」
 完全に棒読み口調。おそらくは母親にそう言うようにと叩き込まれてきたのだろう。生徒たちもそれを聞いて何の疑問も覚えない。
 しかし、生徒の集団の中にはニコニコ笑いながら、静かに、あくまで静かにただならぬオーラを漂わせている黒髪の少女がひとりいた。周囲のクラスメートはすっかり気圧されている。
「お、おキヌちゃん……」
 隣にいた彼女の親友二名はその笑顔に何故か震えが止まらなかった。
「……」
 そんな様子を見ながら横島は額を手で押さえて溜息をついていた。どうしてこのふたりは会う度にこう衝突を繰り返すのだろう? 昔はもっと仲が良かったはずなのに……。
 横島には、おキヌがヤキモチ焼きなのはともかく、冥子がここまで張り合う理由がわからなかった。冥子の『横島クンのこと好きよ〜〜』(リポート6参照)も冥子なりの友愛表現としか考えていない。あの時だって、それをおキヌが早合点して怒ったのだと思い込んでいるのだ。
 おキヌとつき合うようになったとは言え、まだ自分がモテるのだなどとは微塵にも思っていない。むしろ、おキヌとつき合っているのだから、他の女性が自分に近づいてくることなどあり得ないと考えているくらいなのだ。
 これから毎週こんな環境の中で授業をするのか……。
「ナンパなんてやったら殺されるな……」
 ギン! ふたりからのプレッシャーがこちらに流れ込む。聞こえないように呟いたはずなのに。
「ジョウダン、ジョウダンダヨ……」
 だいたい、教師として来た以上、生徒に手など出せるはずがない。意外とその辺は常識人なのだ、彼は。意外に思うかもしれないが、好んで死地に赴く趣味も本当は持っていない。
 『前途多難』、そんな四字熟語が横島の脳裏を掠めた。
「せ、先生、そろそろ授業をはじめていただけませんこと?」
 3−Bクラス委員の弓かおりが強烈なプレッシャーに耐えられなくなって注進した。
「お、おう……。おキ……いや、氷室さん、授業を始めるんで整列して。理事も落ち着いて、ね」
 苗字で呼ばれたことに一瞬目を光らせたおキヌだったが、今は教師と生徒の関係だ。それも仕方ないと見過ごし、列に戻った。



「……気を取り直して、今日はまず挨拶代わりに模擬戦をやろう。大まかなレベルも知っておきたいしね。誰か代表で相手をしてくれる人?」
 横島がそう言うと、クラスの誰もが躊躇いを見せつつも色めき立った。
 先日の来校時に横島は鬼道と冥子のふたりとそれぞれ試合をして勝っている。特に暴走した冥子を抑えたのを目の当たりにした生徒たちの間では「妖怪(のように強い)」との評判が定着している。もっとも、カッコの部分が省略されていたため、横島は「俺は人間やあっ!」と涙を流していたが。
 ともかく、彼女たちとてGSの卵だ。そういう相手となればぜひとも戦ってみたいという気持ちはある。しかし、横島は『代表で』と言った。そうなるとクラスのメンツを背負うことになるから、ここは自分より優秀な生徒に譲るべきではないかと葛藤する。当の優秀な生徒、例えば弓かおりはというと、周囲の生徒から声がかかるのを待っているというわけだ。名実共に「任される」というのは優越感を刺激する。
「かおり、あんたが……」
「あたしがやります!」
 ようやくかおりを促す声がかかったその刹那、ひとりの生徒が自分から名乗りを上げて前に出た。赤く染めた髪を逆立てた少女である。
「確か……一文字さん、だったかな」
 横島が確認すると、魔理は名前を覚えられていたことに少しだけ赤くなって頷いた。何度も顔を合わせてはいるものの、自分から名乗ったことなどずいぶん前に一度あったかないかくらいのはず。横島にしてみれば一度聞いた女性の名を忘れるわけはないし、何より、おキヌからいつも聞かされている名前でもある。
 頬を赤らめている魔理に背後から二対の刺すような視線とプレッシャーが襲いかかった。
 血の気が引いていきそうな悪寒を感じ、ブンブンと頭を横に振った魔理は、真っ直ぐ横島を見て言った。
「お願いします!」
「ん、じゃあ理事、審判お願いします」
 横島は冥子に声をかけた。絶えず放出されるプレッシャーは無視の方向で。
「悪いな、弓」
 機会を窺っているのが見え見えだった親友に一声かける魔理。かおりはかおりで、残念そうではあるが、仕方ないという顔もしている。
「早い者勝ちよね。私はまたの機会にしますわ。せいぜいがんばりなさい」



「はじめ〜〜」
 冥子の叫び声と同時に、魔理が先制して動き出した。霊力を込めた拳で横島に殴りかかる。
 最初の一撃を、横島はサイキックソーサーで受け止めた。だが、魔理は止められることなど承知していたかのように体をよじって回し蹴りに移る。それすらもサイキックソーサーに弾かれるが、諦めることなく魔理は波状攻撃を続ける。
 鬼道政樹の夜叉丸の連続攻撃を受け止めるほどの反射神経と防御力だ。魔理の攻撃ではスピードもパワーもとうてい及ばない。反撃の余地すら十分にある。しかし、横島は防御に徹し、魔理に攻撃を続けさせた。魔理の霊力の使い方が非常に効率の悪いものであることを見抜いたからだ。全身に霊力を纏う形で戦っているが、結果としてかなり分散されてしまっている。攻撃力も防御力も中途半端になるのだ。
 次第に疲れが見えてくる魔理。しかし、人間は疲れてくると効率のよい体の使い方を無意識に探る。少しずつだが、インパクトの瞬間に拳や脚に帯びる霊力が周囲よりも濃くなってくる。その分、それ以外の箇所の防御力は減少しているのだが、横島はそこを敢えて見過ごすことにした。
 そして、自分の疲労を感じた魔理が最後とばかりに渾身の一撃を繰り出した時、その右拳が凝縮された霊力に覆われていることを横島は見て取った。その時初めて、横島は自分から動き出す。サイキックソーサーをそのまま勢いよく前に押し出して魔理の拳にぶつけたのだ。投げつけたり霊波刀を使ったりするのに比べて傷つけてしまう可能性が少ないという横島の判断だった。
 霊力がスパークして魔理が弾き飛ばされてしまう。



「いたたた……さすが鬼道先生に勝っただけあるな」
 魔理が呻きながら立ち上がろうとした。
「そんなことないぞ。君もなかなか筋がいい」
 横島がそっと手を差し伸べる。こういう辺りは実に紳士的な振る舞いである。
「先生……」
 魔理の方も躊躇いがちに右手を伸ばした。心なしか目がキラキラと輝いている。これがどこぞのスポ根少女マンガだったら光の屑が零れる背景に薔薇のフレームがはまっていたかもしれない。
 しかし、残念ながらこれは少女マンガではない。
 バクン!! いきなり大きな口の怪物が横島を頭から丸飲みにした。閉じた口から横島の足だけがはみ出してジタバタと動いている。
 冥子の使役する式神ビカラだった。
「うちの生徒に手を出しちゃダメよ〜〜横島クン〜〜」
 言っていることはまっとうな教育者のセリフだが、おそらく心中では違うことを考えている冥子。そもそもいくら過去の行いがアレだからと言って、立ち上がるのに手を貸しただけでこれではあんまりである。
「ちょ、ちょっと冥子さん!! 私の横島さんに何をするんですか!?」
 さり気なく『私の』にアクセントを置きながらそう言って冥子に詰め寄るおキヌ。その口調には心なしか、その場にいる全員に言い聞かせるような響きがある。
「あ〜〜ん、おキヌちゃん、怒っちゃイヤ〜〜」
「今の横島さんならあたしらに手は出さねえと思うんだけどなあ……」
 いつもおキヌから惚気話を聞かされている魔理が、右手を虚しく伸ばしたまましみじみと呟いた。
「お〜〜い……どうでもいいから誰か助けて……」
 そんな中、ひとつの命が燃え尽きようとしていた。



「さて、さっきの試合についてだけど……」
 式神に食われかけたのに傷ひとつなくケロッとした顔で授業を続ける横島。その様を見て生徒たちは「妖怪(のようにつおい)」との認識を新たにするのだった。
「最初、一文字さんは全身に霊気を纏って攻撃してきた。それはそれで良く訓練されていると思うんだけど、結果的に攻撃力が減少してしまっていたんだね。攻撃と防御の瞬間にその箇所に効率よく霊力を乗せる技術は必要だ。最後の攻撃はそれができていた。現に、俺のサイキックソーサーとぶつかり合ったのに怪我しなかっただろ?」
 生徒たちは横島のコメントを真剣に聞いている。
「ということで、これからの時間は俺が使ってる霊気の盾『サイキックソーサー』を作る練習をやってもらって、その霊力の乗せ方の実習をしようと思う」
 クラスがざわめいた。あの技の防御力の高さは鬼道戦でも証明済みだ。それを教えようというのだ。
「別にコツは要らない。手先に全身の霊力を集める感じでやれば良いんだ。ただし、この技はあまり実戦向きじゃない」
 生徒たちは一様に戸惑いの表情を浮かべた。実戦向きではないと言ったって、横島は実際に使っていたではないか。
「全身の霊力を一箇所に凝縮するからね、それ以外の部分は極端に霊的防御力がなくなる。本気で集中させれば、どんな攻撃でもまず弾くことができるけど、その代わり、受け損ねて体に当たったら掠っただけでも致命傷になりかねないんだ。だから実戦で使うようなバカは、俺と……あと俺の真似した奴がひとりいたかな」
 そう言って横島は静かにクラスを見回した。
「とは言ってもいざという時の防御には使えるし、それでなくても霊力を自在に操る訓練としては最適だから、みんなにやってもらおう」



 ということでクラス一同、サイキックソーサーの実習開始。
 器用な生徒になるとものの数分で作り出せるようになっていった。元々それほど高等な技ではないのだ。「心眼」の力を借りていたとは言え、霊能力に目覚めてすぐの横島が作り出したくらいだし、雪之丞も対戦中に真似して作ってしまったのだから。
 意外と苦心しているのがおキヌで、いまいちイメージが湧かないようだ。
 生徒たちの間を回りながら様子を見ているうちに、そんなおキヌの様子に気がついた横島は、後ろからそっと近づくと、おキヌの右手首を取った。一瞬驚いた表情を見せるおキヌだったが、それが横島だと気づくとサッと頬を染めた。
 横島は、手からおキヌの手首を通して霊力を送り、おキヌの掌に霊気の盾を発生させた。
「そのソーサーに霊力を送り込んで」
 横島がそう指示すると、おキヌは顔を真っ赤にして俯きながらも言われた通りにした。すぐにおキヌの掌のサイキックソーサーが大きくなっていく。それを見て取ると横島はそっと手首を放した。
「そう。あとはそのイメージを忘れないで」
「は、はい」
 再び生徒を見回り始める横島に、その「指導」の様子を羨ましそうに見ていたひとりの生徒が、目をキラキラさせながら声をかけた。
「先生、私もできないんですけど〜」
 横島は一瞬戸惑いを浮かべたが、おキヌだけ特別扱いしたと思われても困るので、その生徒の所へ向かうことにした。
 横島の手がその生徒の手首に触れようとしたその時、後ろから飛んできた霊気の盾が命中し、横島はそのまま吹き飛ばされた。
「ご、ごめんなさい!! 手が滑っちゃいました!!」
 ……おキヌだった。手が滑ったにしてはずいぶんと見事な投球フォームである。
「で、できたコは今の要領で……できてないコに教えてあげ……て」
 パタン。そう言って横島は意識を手放した。
 おキヌは、横島に「指導」を頼んだ生徒をニッコリと見ながら言った。
「私が教えてあげますよ♪」
 ダメだ、このふたりに関わったら命がない、生徒は震えながらそう思った。
 その一方でトテトテと横島に近づいていく冥子。
「横島クン〜〜私もまだできないんだけど〜〜」
 ……返事がない。ただの屍のようだ。



「じゃあ、今日の授業はここまで!」
「ありがとうございました!」
 何はともあれ、横島先生の第一回授業は無事(?)に終了した。
「横島クン〜〜今後の指導方針の打ち合わせも兼ねて〜〜お昼ご飯をご一緒しませんか〜〜」
 またしても棒読み口調の冥子。きっと理事長が用意したシナリオなのだろう。
 ピクン! 耳ざとく冥子のセリフに反応するおキヌ。突然発せられたオーラに周りの生徒たちは冷たい汗をダラダラと流して固まっている。
 横島は今まさにこの現実から逃避しようとしているところだった。
「横島・先・生♪ 私もお食事にご一緒してよろしいですか?」
 ニッコリと微笑みながら横島に声をかけるおキヌ。表情は笑顔だが、断ればどうなるのか、横島には想像するだに恐ろしい。
「だめよ〜〜生徒さんには〜〜聞かせられないお話もあるから〜〜」
「そういうことは職員室で放課後にでもなさったらよろしいんじゃないですか?」
 間髪を入れないおキヌの切り返し。
「そうね〜〜じゃあ放課後にゆっくりと打ち合わせでもしましょうか〜〜」
 おキヌは墓穴を掘ったことを悟った。これではみすみすチャンスを与えてしまったようなものではないか。こうなったら昼食だけでも死守しなければならない。
「じゃあ、横島さん。お昼ご飯に行きましょう♪」
「あら〜〜おキヌちゃんも来るの〜〜」
 『おキヌちゃん』と来たよ。
「打ち合わせは放課後にするんじゃないんですか?」
「そうだけど〜〜お昼ご飯とは関係ないでしょう〜〜?」
 しまった! どっちにしても断る理由にはならないではないか!?
 こんな会話が為されている間、横島は現実を逃避しかけていたが、最後の希望とばかりに固まっていた生徒たちに声をかけた。
「よ、よかったらみんなで昼飯にしない?」
 この際、クラス全員分おごることになっても構わない。昔と違って今はそのくらいの金銭的余裕はあるのだ。このふたりに挟まれて食事というのは命に関わりそうな気がする。
「ど、どうかな、一文字さんと弓さんはおキヌちゃんと仲が良いそうだし」
 『氷室さん』と呼ぶのをやめたのは授業が終わったからでもあり、これ以上他人行儀な呼び方をしては火に油を注ぐと判断したからでもあった。
 しかし、しかしである。他の女性に声をかけただけで十分だった。おキヌと冥子の両方からブワッと霊気が立ち上った。
「せ、せっかくですが、今回は遠慮させていただきますわ」
「あたしも命は惜しいもんで……」
 模範的な返答をしてくれた親友ふたりにおキヌはニッコリと微笑みかけた。何故かその笑みに震えが止まらなくなるふたりだった。
「じゃあ、行きましょうか、横島さん」
「あ、待ってよ〜〜おキヌちゃん〜〜」
 ふたりに挟まれて体育館を出ていく横島の姿は、さながら「売られていく子牛」のように映ったという。

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