ばとるのお時間!!


「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 さわやかな朝の挨拶がこだまするとしても、某カトリック系女学園のようなこんな挨拶が飛び交うことは、この学校にはない。
  そうは言ってもこの学校が乙女の園であることは間違いないし、敬虔なクリスチャンが一部に存在して、その女生徒が将来シスターになる可能性があることも間違いない。ただし、現在のところはカトリック教会認定の正式なシスターになることはできないようだが。それに、シスター候補と同じくらい神社の巫女がいたり、お寺の跡取り娘がいたりもする。
 私立六道女学院。日本に数少ない霊能科を有する高等部は有名で、GS資格試験の合格者の三分の一がこの学校の出身と言われているほどである。
 そして今、この学校に五人の男たちが集結した。
(BGM マーラー:交響曲第一番ニ長調「巨人」より第四楽章)


「……というわけで、今日は特別講師として……」
 教師もすっかり板についてきた横島忠夫が体育館で話す声は、生徒たちの一部の耳にしか届いていない様子だった。残りの生徒たちはというとどこかうっとりとした表情で横島の後ろに並ぶ男たちを見ている。
 横島も含めて五人。集まっているのは間違いなく指折りの実力を備えたGSたちであり、日本GS界の次代を担う期待の星である。中でも特に生徒たちの熱い視線を浴びているのは三人。
 ひとりはピエトロ・ド・ブラドー、通称ピート。五人の中でもっとも若く見えるものの、実際には齢七百を超えるバンパイア・ハーフ。ぶっちぎりの最年長 だ。そのくせ横島とは高校の同級生で、高校を卒業後はオカルトGメンで研修中である。輝くような金髪に物憂げな碧眼は、もっとも多くの女生徒の視線を集めている。
 そしてそのピートの上司に当たる長髪の男が西条輝彦。ピートを除く四人の中では最年長。オカルトGメン日本支部勤務のエリート公務員である。横島によれば「道楽公務員」らしいが、仕事に対する姿勢は真摯で、その指揮官としての能力の高さには定評がある。ただ、ちょっと女性癖が悪いところが玉に瑕だが。あとは横島が絡むとついついムキになる大人げない部分もある。横島にもその傾向があるからお互い様と言えるが。
 そしてもうひとりは誰あろう、横島忠夫である。最初にここを訪れた際には惨憺たる言動により悪評で満ちていた彼であるが、非常勤講師として毎週授業を行うようになって以来、日増しに尊敬を集め、今では生徒間で憧れのGSランク上位に位置している。さすがに現状では人気の上で美神令子に及ばないものの、ピートや西条とはいい勝負である。ただし、それを快く思わない女性が学院内に二名ほど存在して、強烈なプレッシャーを「横島派」の生徒たちに叩きつけるため、他の二派に比べると、「隠れファン」的な面が強くなることは否定できない。
 というわけで今、生徒の視線は横島、西条、ピートの三人にほぼ均分に注がれていた。もっとも、横島に注がれる視線はどちらかと言うと「真面目に授業を聞いています」というスタイルを装ったものである。あからさまに憧れの視線を向けるのは危険なのである、少なくとも今、この場では。
 さて、残りのふたりは上記の三人に比べると知名度も低いため、女生徒たちの注目は集めていない。ひとりはどこか不機嫌そうな小男と、にこやかに手を振る大男だった。
 不機嫌そうな小男の名は伊達雪之丞。一方的に横島をライバルと定めるバトルマニアである。裏稼業が多いためGS界の表舞台に立つことは少なく、それが知名度の低さにつながっているが、単純な戦闘能力では横島や西条にも引けを取らない実力者であることは間違いない。何故不機嫌なのかはわからないが、同じように不機嫌そうな円らな目の少女が生徒の中に混じっているから、その辺りと関係があるのかもしれない。おそらくはお互いに照れ隠しでしかないと思われるが。
 ニコニコと手を振るのはタイガー寅吉。ずば抜けて優れた精神感応者なのだが、除霊向きではない能力の故に結果を出すことができず、GS資格の取得でも横島やピートに遅れを取っている。その手を振る先にいるのは気合の入った赤髪の少女。顔を真っ赤にしてやめろと言わんばかりに腕を大きく縦に振っているが、タイガーはそんな意図にも気がつかない様子でニコニコと手を振り続けている。精神感応という特殊能力のゆえ、ごく普通に人の心の機微を読み取るのが苦手なのかもしれない。


 ……なんてことを生徒の前で言ったわけではないが、横島の方も集まった特別講師たちの紹介を行っていたようだ。
「ま、とりあえずこいつらの紹介はこんな感じ……って全然人の話聞いちゃいないなあ。そりゃまあ、君らにしてみりゃ『憧れのGS』なんだろうけど、そんなにピートがいいのか、西条がいいか!?」
 横島が寂しそうに呟いた。始めから数に入っていない雪之丞とタイガーのふたりがムスッと顔をしかめる。が、自分のことも除外している辺り、横島もまだまだ自覚が足りない。
 ざわめきの静まらない生徒たちに横島が困り果てた様子をしていると、ぶわっと強烈なプレッシャーが二方向から叩きつけるように生徒たちの上を襲った。それまでの喧騒が嘘のように体育館が静寂に包まれた。
「……」
「みなさん〜〜授業はきちんと聞きましょうね〜〜」
 のほほんと間延びした口調の中に重厚な威圧感を滲ませて冥子が言った。
 表情だけはにこやかな笑みを浮かべているものの、そこに纏っている空気は穏やかではない。いつ式神が一斉に飛び出してもおかしくない気がする。
「……やっぱりあの人の娘だね」
 気づいてはいけないことに気づいてしまったかのようにどこか遠くを眺めながら西条が独りごちた。
 その上にもうひとつ、生徒たちの中にも無言のプレッシャーが渦を巻くように広がっているのだ。やはり顔だけは天使のように微笑んだままで。
 生徒が静まると今度はふたりのプレッシャーがぶつかり合ってチリチリと空気を震わせている。一言も発せられることがないまま、壮絶な精神戦が繰り広げられているようだった。
「静かになったのはいいんだけどな……」
もう嫌だ、こんな生活……などとは独り言でもとても言えない横島だった。


「気を取り直して、まずはみんなに連携の大切さを学んでもらう」
 ようやく授業らしい雰囲気を取り戻した二クラス分の女子高生たちを前に、横島が説明を始める。
「よほど楽な除霊作業でない限り、GSがひとりで行動することはないと考えていい。それぞれに得意不得意があるから、それを補い合うためにもチームを組んで臨むのが基本だ。そしてチームで各々が自分の役割をきっちりこなした時、チームの総合力は個々の力のトータル以上になる」
「ちゃんと先生らしくやってるみたいじゃノー」
「ジャージが妙に似合ってるよな」
「ふたりとも、いくら横島さんでもそれは失礼ですよ……」
「お前ら三人とも廊下に立ってろ!!」
 静かになった生徒たちの代わりに小声でひそひそ話をするタイガー、雪之丞、ピートに、横島の怒声が飛んだ。
「連携が悪いねえ……」
 そんな彼らを横目で眺めながら西条がポツリと呟いた。


「つまり、心眼で相手の動きを掴み、精神感応でチーム全員に伝える。そこから指揮官が判断を下し、もう一度精神感応で全員に伝達する……とまあ、言葉で言えばずいぶんとややこしく聞こえるけど、実際にはこれが全部ほんの一瞬の間に起こってるんだ。それが可能になるのも、高レベルの精神感応力者がいればこそだ。もちろん、指揮官の素早い判断力と心眼で相手を見抜く能力、さらには一瞬の指示に対応できる高い戦闘能力がすべて揃って初めて実現する」
 そう言いながら次々にタイガー、西条、雪之丞とピートを指し示していく。
「とにかく、論より証拠。模擬戦の形で実際にやってみるぞ。じゃあ、おキ……氷室さん、ちょっと出てきて」
「はい」
 おキヌは横島の呼び出しに怪訝な顔をしながらも嬉しそうに前へ進み出た。
「じゃ、氷室さんにはチームに入ってもらって心眼で相手の動きを読んでもらうな」
「え、でも、あの心眼はヒャクメ様に返してしまいましたよ?」
 すると横合いから西条が口を挟んだ。
「一度身につけた能力ってのは完全には忘れないものだよ。それに、ヒャクメ様の心眼自体は補助輪みたいなもんさ。GS試験の時の横島クンのバンダナと同じようにね。そうだろ?」
 西条の言葉に頷きながら横島が言葉を継いだ。
「ああ。……と言っても、ブランクが空いてるし、道具もなしでいきなり何もなしでやれっていうのも酷な話だから、取りあえずこれを使ってくれ」
 そう言って横島は文珠をふたつ手渡した。どちらも『視』の文字が刻み込まれている。
「それから、ちょっと大変かもしれないけど、タイガーには氷室さんが心眼で捉えた映像と西条からの指示を生徒全員にも送ってもらう。できるよな?」
「うまく出力を調整すれば何とかできるかノー」
「オーケー。それで、GSチームに戦ってもらうのは……」
「横島クンだ」
 事も無げにサラリと横島の言葉を折る西条。しかもとんでもないことを言っている。
「ちょっと待て、俺は解説役じゃなかったのか!? 鬼道の作った式神が相手っていう段取りだったろうが」
「それじゃつまらないだろ?」
「そういう問題じゃねえ。だいたい、お前は指令塔だから直接出張ってこないとしても、ピートや雪之丞を相手にするんだぞ。それも連携バツグンの状態で。死んでしまうわっ!!」
「はっはっは、大丈夫だよ。とどめは僕が刺してあげるから」
 ……何のフォローにもなっていない。むしろよけいに物騒だ。
「ようしわかった。その代わり文珠でも何でも使わせてもらうからな。おキヌちゃん以外の命の保証はできねえぞ」
「君こそ、明日の日の目は拝めないと思うんだね」
 とても学校の授業で、しかも教師サイドが交わす会話ではない。生徒たちもただただ呆れ顔である。何しろ憧れの先輩GSふたりがまるで子供のように言い争っているのだから。
「仲がいいよな、あのふたり」
 魔理がしみじみと呟いた。
「どうやればあれがそう見えるのです?」
 呑気な魔理の感想を聞いて弓が疑問の声を漏らした。
「男の友情ってヤツだよ」
 そう答える魔理は羨ましそうな表情を浮かべていた。どこか共感するところがあったらしい。


「それじゃあ〜〜始め〜〜」
 冥子を審判として横島とGSチームの模擬戦が幕を開けた。冥子も参加したがったのだが、横島と西条双方からの反対により断念せざるを得なかった。それはそうだろう。敵としても味方としても不確定要素が多すぎる。
 先に動いたのはGSチームだった。早々に魔装術をまとった雪之丞が突撃をかける間に霧化したピートが横島の背後に回る。が、その寸前に横島はその場を抜け出すと、それまでいた場所に『爆』の文珠を放り込んだ。閃光が走ると共に爆風が巻き起こり、実体化寸前のピートは爆風に散らされてしまう。閃光を真っ正面から受けた雪之丞の目が眩んだ。タイガーを介しておキヌの心眼の情報と西条の指示は入ってくるのだが、反応が遅れてしまう。
 その間に、横島は素早い動きでタイガーに狙いを定めた。この作戦のネックがタイガーなのは十分に承知している。タイガーを眠らせれば連携はガタガタになるのだ。
 しかし、おキヌの心眼は閃光と爆煙など関係ないかのように横島の行動を読んでいた。文珠『眠』を発動させようとした横島の右手に強い衝撃が走り、文珠が弾き飛ばされる。西条が拳銃で横島の手を狙い撃ちしたのだ。GS試験に用いられるのと同じこの結界の中では、単純な物理攻撃である銃撃が横島にダメージを与えることはない。せいぜい持っている物を弾き飛ばす程度で、おそらく横島には痛みすらないだろう。それを逆手に取ったのだ。もっとも、西条は結界の中でなくても遠慮なく撃ったかもしれないが。
 弾き飛ばされた文珠は結界の壁に当たって床に落ち、誰ひとり巻き込むことなく発動した。
 横島は舌打ちをしながらすぐに身を引こうとした。が、真後ろに気配を感じて左に転がり込む。わずかに遅れてピートのダンピールフラッシュがその場を通過した。
 息つく間もなく次の瞬間には横島を雪之丞の霊波砲が襲った。咄嗟にサイキックソーサーを盾にして防ぐと、間髪入れずにソーサーを攻撃の来た方向に投げつけ、その反動で後ろに下がる。
 背後に気配を感じた時にはもう遅かった。
「バンパイア・ローリングソバット!」
 ノリノリの叫び声と共に放たれた回し蹴りが横島の背後に炸裂。
「ぐふぅ!」
 横島は大きく跳んでダメージを緩和するのが精一杯だった。だが、動きが大きくなったその隙を見逃す心眼ではなかった。すかさず雪之丞が追撃に出る。
「……っ!」
 一旦は霊波刀で切り払った横島だったが、絶え間ないラッシュに防戦一方となり、じりじりと後退していく。
「はい、チェックメイト」
 背中にぴとりと刃を突きつけられ、横島の動きが止まった。同時に雪之丞の攻撃もやむ。


 両手を挙げてへなへなと座り込む横島に後ろから西条が声をかけた。
「思ったより粘ったね。君にしては上出来だ」
「うるせえよ。ったく寄ってたかって趣味が悪い」
「すみません、横島さん……」
 本当に申し訳なさそうに手を差し伸べるおキヌに横島は苦笑する他なかった。
「こうやって連携を組めば、効率的に相手を仕留めることができるわけだ。わかったかな?」
「西条、それは俺の役目……」
 おキヌの手を借りて立ち上がりながら横島が言った。
 生徒たちに対して何か付け加えることがあるかと考える横島だったが、その必要はないようだった。タイガーの精神感応を通して、心眼からの情報、西条の指揮、それに雪之丞やピートの動きを子細に見せられていた生徒たちには十分すぎるほど身にしみてわかっているはずだった。
「まあ、横島クンくらいなら僕ひとりでどうにでもなるけど、何しろ彼はゴキブリ並みにしぶといからね」
「野郎、言わせておけば。お前なんかにやられるもんかよ」
 西条が挑発すれば横島が突っかかっていく、生徒の前だというのに懲りないふたりである。
「ほう、いい機会だ。ここらでひとつ決着をつけておくかい? 生徒諸君にもいい教材になるだろうしね」
「やろうってのか。上等だ、かかってこいや」
「ちょっと待て」
 西条の背後から渾身の一撃。遠慮の欠片もない突然の不意打ちにさすがの西条も床に沈んで目を回している。
「横島とやるのはこの俺と最初から決まってる」
 こんな割り込み方をしてくる者などひとりしかいない。自他共に認めるバトルジャンキー・雪之丞である。
「えー、お前かよ」
 いかにも面倒なことになったという調子で横島が雪之丞を見た。一転してやる気のなさそうな表情である。
「お前と勝負すると疲れそうだからなあ」
「てめえ、ライバルの俺を差し置いて西条となら戦ってもいいってのか!?」
「いつからライバルになったんだ、いつから」
「最初っからだ。俺が決めた」
 さっぱりと言ってのけた。横島には返す言葉が見つからなかった。
「文句はないようだな。じゃ、始めるぜ。おい、ピート、タイガー、それ邪魔だからどけといてくれ」
 横島の沈黙を承諾と受け取ったのか、雪之丞は振り返りながら床に倒れている西条を指差して言った。
「『それ』とはお言葉だな。君にも年上の人間の敬い方を教える必要があるみたいだね」
 むくりと起き上がった西条が詰め寄る。
「ああ、今忙しいからまた今度な。目ぇ覚めたんなら審判でもやっといてくれ」
 ひらひらと手を振りながら涼しい顔でそう言った。清々しいまでの唯我独尊ぶりである。
「やれやれ、めんどくせえ」
 観念した横島も西条には目もくれず試合場の中央へ向かう。
「……君たちね」
 物理的にも精神的にも頭痛が止まらない西条である。
「えと、それでは横島さんと雪之丞のエキシビジョンマッチを始めます」
 頼まれてもいないのにマイクを握って司会を始めるピート。もはや西条置き去り。生徒たちもあまりの展開に理解が追いついていない様子である。その傍らでは鬼道が頭を抱えていた。


「ほな、始めるで。二人とも準備はええか」
 結局、審判は鬼道が担当することになった。
「もう待ちきれないぜ。さっさと始めてくれ」
「……ったく、このバトルジャンキーが」
 そわそわと落ち着かない雪之丞とは対照的に溜息混じりの横島だが、口とは裏腹に表情はそれほど嫌そうでもない。
「始……」
「レェディィィィィィ、ゴォォォォウッ!!」
 鬼道の合図を遮るように大声で叫びながら魔装術を纏う雪之丞。
「世紀の対決が今、幕を開けたあぁっ!!」
 実況(?)のピートもノリノリで合わせている。
 かけ声と同時に雪之丞が突撃をかける。一方の横島はカウンター狙いなのか、霊波刀を構えて立っている。霊気のたっぷりと乗った雪之丞の拳が光って唸りながら突き出される。横島は霊波刀で受け止める素振りを見せたが、次の瞬間には最小限の動きで攻撃をかわしていた。そのまま上段に構えた霊波刀を振り下ろす。
 しかし、攻撃が空振りに終わった雪之丞の方もバランスを崩すことなく急制動をかけると、間髪入れずに切り返して回し蹴りを放ってきた。
「バイシクル・シュートだああっ!!」
「……それはサッカーだよ」
 ノリノリのピートに西条が静かにツッコミを入れる中、横島の霊波刀と雪之丞の魔装術に覆われた蹴りがぶつかり合い、霊気がスパークする。一瞬の後にはふたりとも下がって間合いを取っていた。
「また一段と腕を上げたみたいじゃねえか」
「伊達に独立しちゃいねえ。前とは緊張感が違うんだよ」
「楽しいじゃねえか。本気で戦える高揚感。わくわくしてくるぜ。お前だってそうだろ、横島!!」
 心底嬉しそうに雪之丞が言い放つ。
「そういう病んだのはお前だけだ。俺を巻き込むんじゃねえ」
 相変わらず突き放したような口調の横島だが、口元の笑みが雪之丞の問いかけに対して是と答えていた。
「へっ、その割にはいい表情(かお)してるぜ、お前」
「言ってろ!」
 横島は短く叫ぶと攻勢に出た。雪之丞が放った牽制の霊波砲を霊波刀で切り払いつつ、一気に間合いを詰める。そのまま霊波刀の突きを繰り出すが、雪之丞は落ち着いて右にかわす。そこで横島の霊波刀が一瞬消えたかと思うと拳の両側に垂直方向に光の刃が走った。慌てて身をよじる雪之丞だが、刃が左肩を掠めた。横島はビームナ●ナタのように霊気が展開した得物で回転斬りを仕掛ける。雪之丞が至近距離から咄嗟に放った霊波砲が回転する刃に衝突した。その勢いで弾かれるようにふたりの体が離れる。ふたりとも背中から床に突っ込んだが、どちらも受け身の体勢から転がり、起き上がる。
「文珠か」
 雪之丞の問いかけに横島はニッと笑って答えた。
「『剣』だよ。シミュレーションの偽物とは言え、美神さんを追いつめた縁起のいい得物だ」
 アシュタロスとの戦いの最中、都庁の地下での訓練のことを思い出す。実際にあの時戦ったのは紛れもなく本物の美神令子だったのだが、横島は今でもその事実を知らなかった。
「そいつは侮れねえな」
 互いに目を見合わせ、ほぼ同時に仕掛けるふたり。何度目かのぶつかり合いは一進一退の攻防となった。
 キーンコーンカーンコーン♪
 そこへ気の抜けるような授業終了のチャイムが鳴り響く。ふたりは何も聞こえないかのようにバトルを続けている。
 やれやれ、溜息をついた鬼道が生徒たちの方を振り返る。
「ほな、授業はこれでお終い。着替えて次の授業に行くように」
 えーっと抗議の声が生徒の輪から巻き起こる。
「先生、まだ決着ついてないじゃん。最後まで見せてくださいよ」
 魔理が口を尖らせて言うと、弓もそれに同調する。
「そうですわ。こんないい勉強、なかなか……」
「ママーッ、見ててくれ! 俺は強くなったぞーっ!!」
「……やはりここは引き上げることにしましょう。授業に遅れますわよ」
 そう言ってひとりで先に出口へと歩いていく弓。恥ずかしさのためか怒りのためか、顔から火が出そうなくらいに真っ赤だった。
「雪之丞、覚えてなさい……」
 どうやら試合後の雪之丞は顔から血が出る運命らしかった。


 下校時間をすっかり過ぎて日も沈み、外は真っ暗だった。しかし、照明のついた体育館ではなおも激しい格闘が続いている。
「なあ、ふたりともそろそろ終わりにせえへんか?」
 本日何十回目になるかわからない溜息をつきながら鬼道が声をかけてみる。
「更にやるようになったな、横島ぁっ!」
「伊達にサルん所で修業しちゃいねえ!」
「へっ、サルの弟子はお前だけじゃねえぜっ!」
 ……鬼道の言葉など欠片ほども耳に入っていなかった。
「あの〜愛子さん? すみません、今日のお仕事はキャンセルしといてもらえます? ええ、横島さん、ちょっと取り込んでいて」
「手に汗握るねえ。いいよなあ。弓、おキヌちゃん、あたしたちも男の友情を育もうぜ」
「一文字さん、私たちは女ですわ」
 私立六道女学院。ここは乙女の園……。



     あとがき


 ごきげんよう、林原悠です。ようやく完成したAC04アタッカー様からのリクエスト作品でした。いやあ、難産難産。何しろどう足掻いてもバトルから逃げられないリクエスト内容。あまりご期待に添えていないかもしれません。リクエストを頂いたメールの文面から察するにもっと濃いものをお望みだったんじゃないかなあ。でも私は所詮しがないラブコメ書き。これが限界でした。ご勘弁ください。
 ラストは……そうですね、ご愛敬ですね。何というか、決着をつけたくなかったんですよ、横島クンと雪之丞に。そんなわけでうやむやに終わらせてしまいました。
 それにしても随分長いことお待たせしてしまいました。リクエストのメールを頂いたのが7月1日ですから約2か月ですね。……ごめんなさい、嘘つきました。1年と2か月です。もう、こんなに長い間何をしていたのかと自分を問いつめたい。
 尚、バトル野郎な雪之丞は、私のイメージでは関智一さんの声になってます。ド●ン・カッシュを思い浮かべながらお読みください。間違っても北●潤やス●夫をイメージしないように。
 それにしてもピートやタイガー、影薄かったですねえ。私には5人全員をフル活用するテクはありませんでした。
 さて、次が連載作品になるかリク作品になるかは今のところわかりません。でもバトルは当分いいです……。

Index

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