リポート2  フロム・ナウ・オン!!(その2)


 ガキイイン!! 前に飛び出した横島さんが霊気の盾「サイキックソーサー」を展開させて霊の攻撃を阻み、力で押し切って振り払いました。
「おキヌちゃん、文珠!!」
 間髪を入れない横島さんの叫びに、私はポケットの中の『護』の文珠を発動させました。ここへ来る前に横島さんが用心のためにくれた物です。
「よし、おキヌちゃん、その結界の中にいて。しばらくは保つはずだ」
 横島さんはそう言いながら横へ飛び、霊波刀を右手に出現させます。
「意外と動きは速いが、力はそれほどないみたいだな」
 悪霊はまだ私を襲おうとして結界をガリガリと引っ掻いています。
「いい加減におキヌちゃんから離れろっ!!」
 横島さんが霊波刀で斬りかかります。が、寸前で気づいた悪霊はひらりと攻撃を交わしました。悪霊は自分を攻撃した横島さんの方をじっと見つめています。
「横島さん、私も援護します!」
 私はネクロマンサーの笛を取り出しながら叫びました。
「いや、こいつに説得は効かない。動きも速いし、そこから出ると狙われるからじっとしていて」
 横島さんは悪霊を見据えたままでそう言いました。
 悪霊は結界内にいる私を後回しにして横島さんを狙うことにしたようです。
『ガオオオン!!』
 飛びかかる悪霊の攻撃を霊波刀で払い、そのままカウンターで斬りつけますが、悪霊は素早く回避します。
「ちっ、いくら弱くても当たらなきゃ倒せないか……。あのスピードじゃ文珠を当てるのも難しそうだし……」
 横島さんは苦々しく呟きます。
 それからも何度となく攻撃を交わされ続け、横島さんにも次第に疲れと焦りが見えてきました。
「よ、横島さん、結界が……」
 私は声を上げました。結界の出力が下がってきています。戦闘が長引いたため、横島さんの制御を離れた文珠の持続時間が切れかけているようです。悪霊もそれに気がついたのか、素早い動きで再び私の方に向かってきます。一度目は結界に弾かれましたが、二度目には弱まった結界を打ち破ってそのまま襲いかかってきました。やられる! 私は咄嗟に目をつぶり、頭を抱えてうずくまりました。
 ザクッ! 嫌な音が聞こえました。が、覚悟していた衝撃は来ません。恐る恐る目を開けると横島さんが私に覆いかぶさるようにしています。悪霊の攻撃は私を庇った横島さんの背中を抉っています。
「横島さん!!」
「だ、大丈夫……。大したダメージじゃない……」
 そうは言うものの顔から冷や汗が流れています。その間にも空中で体勢を立て直した悪霊がまた襲ってきます。苦しそうな横島さんの表情を見て私も我を忘れて立ち上がりました。守ってもらうだけじゃダメ! 私だって!!
 ピュリリリリリリ!!
 私は無我夢中でネクロマンサーの笛を強く吹き鳴らしました。
『ガ、ガオオ……!?』
 笛から出る霊波干渉で悪霊は身動きが取れずもがいています。私は横島さんにチラリと目配せをしました。どうにか悪霊の動きを封じていますが、それも長いことは保ちません。
「よ、よし……」
 横島さんは渾身の力で立ち上がりました。動くだけの力が残っていないため、その場で右手の霊波刀の切っ先を悪霊に向けました。
「伸びろ!!」
 霊波刀はまっすぐ伸びて悪霊を貫きました。
『ガオオオオオオン!!』
 断末魔の叫びを残し、悪霊は散り散りになって消滅します。それを確認すると、横島さんは安心したように微笑んでそのまま膝をついて倒れ込みました。
「横島さん!」
 私は直ぐに駆け寄りました。



「気分はどうですか?」
 私はベンチに座り、横島さんを寝かせてヒーリングをしながら尋ねました。

ヒーリング中
イラスト:はっかい。様

「うん、よくなってきた。おキヌちゃん、ヒーリング上手になったな。暖かくて気持ちいいよ」
「ごめんなさい。私のせいで……」
「言ったろ、おキヌちゃんは俺が守るって……。それに俺がお願いして来てもらったんだよ」
 でも私は横島さんと一緒にいたかったからについて来たわけだし、それに横島さんの役に立ちたいと思ってたのに……。
「でも、私役に立てなくって、横島さんに守ってもらってばっかりで……。やっぱり足手まといですよね、私」
「そんなことないさ、おキヌちゃんが悪霊の動きを止めてくれたからトドメが刺せたんだし、こうやってヒーリングもやってくれてるだろ」
「でも、私のせいで横島さんが怪我しちゃったんですよ。私じゃなくってシロちゃんやタマモちゃんが来ていれば、きっと戦いやすかっただろうし、美神さんだったらもっと……」
 目の前が少し滲んでくるのがわかります。
「『でも』ばっかり言うなよ。俺はおキヌちゃんが来てくれてよかったと思ってる。感謝してる。ホントだよ?」
 わざと軽い口調で言う横島さん。こんな所も横島さんの思いやりです。
「横島さん……」
 私のせいで怪我をしたのに、自分よりも私の方を気づかってくれて……。私は、私はそんな横島さんが……。
 そこで私は今の状態に気がつきました。これって膝枕……。しかも誰もいない夜の公園でふたりっきりで。この状況って、この状況って……。かああっ、私は恥ずかしくなって真っ赤になりました。心臓がドキドキと鳴り始め、落ち着きがなくなります
「おキヌちゃん、どうしたの? 何か慌ててるみたいだけど」
「え、あ、あ、あの、その……よ、横島さん!」
「ど、どうしたの?」
 横島さんは目を白黒させてこっちを見上げています。
「お、覚えてます? 昔、横島さんに言ったこと」
 私は目を逸らして夜空を見上げながら言いました。
「……?」
「私が生き返って、美神さんのとこに戻ってきて、それからすぐのお仕事の時……。森の中のお屋敷に行った時、落とし穴に落とされて、ふたりっきりになりましたよね」
「あ……!」
「あの時も私、足を挫いて横島さんに迷惑かけちゃって、横島さんが手当てしてくれて……。それで、それで、自分で『足手まといだ』って言ってた私にヒーリングをさせてくれて、『おキヌちゃんがいてよかった』って言ってくれて。私、本当に嬉しかった……。だから、だから……私、言いました、『大好き』って」
 まとまりのない調子でそこまで言っておずおずと視線を落としました。心なしか横島さんの顔にも少し赤みが差してるように見えます。
 そう、私、一度横島さんに告白したんです。愛の告白なんて大袈裟なものじゃなかったけど、でも、横島さんの優しさが心に沁みて、それで、自然に出てきた……告白。
「おキヌちゃん……」
「でも、横島さん、ふざけて話を流しちゃって……」
 私は少しだけ恨みっぽく呟きました。
「あの時はあれでも本気で……って、あ、いや、その、なんつーか……、さすがにあれは失礼だったよね。ごめん」
 横島さんが少しだけ慌てた様子を見せました。私はそんな横島さんにクスッと笑って続けました。
「あの時のこと、まだ答えてもらってません。横島さんは……私のこと、どう思ってますか? 私って魅力ないですか?」
「ど、どうしたんだよ、いったい? いつものおキヌちゃんらしくな……」
「答えてください!!」
 横島さんの言葉を遮って私は叫びました。
「あ、ごめんなさい……」
 少しの間、気まずい沈黙が流れました。
「美神さんや小竜姫さまや他の女の人にはあんなに積極的なのに……。どうして私には何もしないんですか? 魅力がないからですか?」
 私ったら何を言ってるんだろう? 俯いたままそっと横島さんを見ると、困ったような顔をしてます。でも、横島さんは真面目な顔になって口を開きました。
「おキヌちゃんに魅力がないわけないさ。おキヌちゃんほどステキなコはそういないよ。可愛いし、優しいし……。俺にとってもおキヌちゃんは特別なんだよ。でも幽霊だった時から知ってるから手が出せない存在、って思ってたのかもしれない。それにおキヌちゃんには絶対嫌われたくないから」
「そんな、嫌いになんて……横島さんのこと嫌いになったりしませんよ」
「俺は……バカでスケベなだけの男だよ。おキヌちゃんにそこまで想われる価値なんてないさ」
 自嘲気味に横島さんが呟きます。
「価値がないなんて言わないでください!! 私は……私は今のままの、そのままの横島さんが好きなんです! ずっと……ずっと前から好きだったんですよ。でも……私、幽霊だったから、横島さん、振り向いてくれなくて、他の女の人ばっかり見てて……悔しかった。初めて……自分が幽霊なのを恨めしく思いました。変ですよね、幽霊じゃなきゃ、横島さんには会えなかったのに……。だから……生き返って、横島さんにまた会うことができて、横島さんと一緒にお仕事できて、横島さんに助けてもらえて……嬉しかった。だから、あの時、勇気を出して言えたんです、『大好き』って」
 一気に言い切ったところで自然と涙が溢れてきました。滲んで曇っていく視界の中で、横島さんの手が私の方に伸びてくるのがかすかに見えました。気がつくと横島さんの指が私の頬を伝う涙を静かに拭っています。
「参ったな。ホントに俺なんかでいいの?」
「横島さんでいいんじゃありません。横島さんじゃなきゃイヤなの」
 すっかり涙声になりながら私は言いました。ふっと膝の上にあった重みがなくなる感触。
「嬉しいよ。そこまで想ってくれるなんて……考えてなかったから。ホントにあの時は酷いこと言っちゃったな。……ごめん」
 その声は私のすぐ横から聞こえてきました。はっとして顔を上げると、横島さんはいつの間にか私に寄り添ってに座っていました。
「俺は、どうしようもなくバカで鈍感な男だけど、おキヌちゃんがその……俺のことをさ、嫌いじゃないっていうか、まあ、その……好きでいてくれてるんじゃないかな、なんてそんな気はしてたんだ、ちょっとだけね」
 横島さんは手を私の肩にそっと回しながらそう言います。
「でもさ、俺ってずっとモテない男だったろ。だから、ひょっとしたら、いや、きっと俺の気のせいなんだって、おキヌちゃんは誰にでも優しいから、モテない俺に同情してくれてんだって、そう言い聞かせてた。おキヌちゃんじゃなくて美神さんや他の人に飛びついていたのは、最初から無理だってわかりきってたからなんだと思う。おキヌちゃんだと、その、ちょっとだけ希望を持ってたから、その希望が壊れるのが怖かったんだろうな。そういう男なんだ。逃げてたんだ。臆病なんだよ」
 その言葉を聞きながら私はますます涙を瞳から溢れさせました。
「ほら、もう泣かないで」
 そう言いながら横島さんは顔を近づけて、涙に濡れた頬にキスをしてくれました。今までの緊張で火照っていたのとは別の、そう、幸せな気持ちになってきて胸が熱くなりました。まだ涙の浮かんだままの目で横島さんを見上げると、
「おキヌちゃんも物好きだよ」
 横島さんの優しい声が降ってきます。
「一文字さんにもそう言われました」
「う……他人に言われると傷つくな……」
 横島さんは苦笑しながらそう言うと、今度は真剣な表情でまっすぐ見つめてきました。
「俺も……おキヌちゃんのこと、好きだよ」
 少し恥ずかしそうに、でもにっこりと笑って横島さんがそう言いました。そして真っ直ぐ私の方に顔を近づけてきます。私は眼を閉じて待ちました。横島さんの唇がそっと私の唇に重なり、そして離れていきます。
 恐る恐る目を開けると、横島さんが拭ってくれた頬にまた涙が伝っていきます。
「やっと……やっと言ってくれた。嬉しい……横島さん……」
 もう一度、今度は私から横島さんにキスをして、いつかのように横島さんの肩に頭を預け、そのまましばらくその心地よい感覚に包まれてじっとしていました。



 どれくらい時間が経ったのでしょう、横島さんが言いました。
「よし、怪我も治ったし、デートの続きをしようか。仕事、手伝ってくれたお礼に夕食をおごるよ。どう?」
「喜んで!」
「何が食べたい?」
「横島さん、普段ちゃんとご飯食べてます?」
 ちょっと聞いてみました。
「う……外食が多い、かな? 吉○屋とか……」
「もう、ダメですよ、ちゃんとお野菜も食べなくちゃ」
「ははは……じゃあ、魔鈴さんのとこにする? あそこなら栄養のバランス取れてるし」
「いいですね、久し振りだし。行きましょう」



「いらっしゃいませ! あら、横島さんにおキヌさん。横島さんの開業祝い以来じゃないですか?」
 魔法使いの魔鈴さんが経営している魔法料理のお店。魔鈴さんがいつも通りの魔女の格好で出迎えてくれます。
「こんばんは。まだお店、大丈夫ですか?」
 横島さんが不安そうに尋ねると、
「ホントは閉店の時間なんですけど、横島さんたちですし、オッケーですよ」
「いいんですか。ありがとうございます」
 横島さんはホッとしたように言いました。
「今日は美神さんたちはご一緒じゃないんですか?」
 そう言いながらも魔鈴さんは私たちをニヤニヤしながら見ています。
「あ、今日はおキヌちゃんに仕事を手伝ってもらったんスよ。それでお礼に夕食をってことで」
「へえ、お仕事順調なんですね。私も負けてられないかしら」
「いえ。まだまだ始めたばかりで大変ですよ。最近やっとお客さんがつきだしたところで」
「がんばってくださいね。元気の出るもの作りますから。おキヌちゃんも、せっかくの横島さんのおごりですからしっかり食べてくださいね」
「はーい」
 魔鈴さんはメニューを持ってきてくれました。きれいな写真のついたメニューを見ていると、
「これなんかおすすめですよ。ちょっと高めですけどね」
と魔鈴さん。後半は横島さんの方を意識しながら言ったようです。
「美味しそう……。でも……」
 さすがにちょっと迷います。
「いいんだよ、おキヌちゃん、気にしなくても。お礼なんだし。金持ちにはほど遠いけど、昔ほど貧乏でもないんだから。魔鈴さん、それを2つお願いしますね」
 横島さんはにっこりと笑って注文しました。
「かしこまりました!」
 魔鈴さんも笑顔で答えると調理場へ向かいました。途中で振り返って言います。
「おふたりとも、お幸せに、ね」
 私たちは真っ赤になりました。そんなにわかりやすかったのかしら。



「ごちそうさまでした」
 魔鈴さんのお店で食事を済ませ、横島さんは車で美神さんの事務所の前まで送ってくれました。最近買ったらしい国産の自動車です。「機能優先」と横島さんは言っています。
「こちらこそ今日は手伝ってくれてありがとう。今度はおキヌちゃんの手料理が食べたいな」
「はい、また前みたいに作りに行きますね!」
 私は張り切って答えました。
「それから……その、今度の日曜は休みなんだ。一緒に映画でも観に行かない?」
「はい、喜んで!」
 お月さまも私たちを静かに見守っていました。



 帰ってから、連絡もなく帰りが遅くなったことで美神さんに叱られました。それでも嬉しそうにしている私に美神さんは呆れていたようです。
「ったく、うちの従業員に手を出すなんていい度胸してるわ……」
 美神さんは怒っているというよりは少し悔しそうな調子で呟きました。

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