プロローグ


 月夜に浮かぶその姿は神々しかった。
 石段の上に立つその人影は藤色の羽織に紺袴。ダンダラ模様はついていないし色も違うけれど、見た目の印象は時代劇などでよく見かける新撰組の衣装によく似ている。
 高い位置でくくられた長い漆黒のポニーテールが風になびき、月光を照り返して艶やかに煌いている。もっとも、完全な和装にポニーテールという呼び名が相応しいのかどうかはわからない。白い元結(もとゆい)をやや長めに巻いたその髪型は、その出で立ちと相まって一見すると髷のようにも見えた。
 そして何よりその姿を特徴づけているのが右手に握られた薙刀(なぎなた)だった。月影を受けて輝く白刃は舞台用の小道具などではなさそうだ。

藤崎和水
イラスト:クロト様

「かような夜更けにお独りで逍遥なさると危のうございますよ」
 儚げに聞こえる柔らかい声が風に乗って少年の元へと届く。その声を聞いて初めて、その美しい人物が女性だとわかった。自分と同じ高校生くらいだろうか。
「危ない?」
 天神航太郎(てんじんこうたろう)は忘れていた瞬きを何度も繰り返しながら、少女の言葉を疑問符つきで鸚鵡返した。
 何が危ないというのだろう。ここは日本国内で、この地方ではそれなりに大きな都市だ。しかも人通りはないものの街灯に照らされた小道。決して薄暗い路地裏というわけではない。加えて今夜は満月。夜にしては明る過ぎるくらいだ。
「とりわけ満月の夜は鬼がざわめきますゆえ」
 歌うような抑揚のついた声が奏でる「鬼」という言葉に、航太郎の背筋がぞわりと粟立つ。
 新しい街に着いて早々、大変な相手に出会ってしまったかもしれない、航太郎はそう直感しながらも、こちらへ向かってゆっくりと石段を下りてくる少女から目を離すことができなかった。
 月明かりを弾く白銀の刃とその主の柔らかい微笑みは、さながら航太郎の魂を刈り取るべく黄泉より遣わされた死神のように恐ろしく、そして美しかった。

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背景画像:季節素材 夢幻華亭

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