風になれ!(4)

作:AC04アタッカー


いよいよあと2台でスタート。横島が最後である。

既に周りの音は耳に入ってこないほどにコンセントレートしている。

『シフトチェンジやブレーキのタイミングは指示するから初めて走るコースでも気負う事はない。
 とにかく車体と一体になることをイメージしてくれ! そうすればコイツは応えてくれる……』

剣の声が直接心に響く。

(了解)

念話で答え、誘導路をゆっくりと走る。
まだ龍一の記録が抜かれていない事で、改めてその知識と技術に驚嘆する。
ライディングに関してもゲストコメンテーターとして来ているプロライダーを唸らせた。

なお、アンリミテッドクラス車両の殆どが公道で走ることが許されない程に手を入れられている。
保安部品のほぼ全てを軽量化のため撤去し、
可能な限り出力追求を求める為サイレンサーは排圧調整の意味しか持たないものが殆どである。

そんな中、甲高い快音を残して一台のマシンが計測ラインを走り抜けた。

小野寺コンペティションのライダーが駆るZZ-R1100改だ。

「遂に来たーッ! 本日の最高速! しかも300km/hの大台だァッ!!」

電光掲示板は308.751km/hを表示し、
ソレまで298km/h台が最高速争いの“主戦場”だったものを一気に突き放した。



フルカバードで空力を徹底的に考慮されたKawazakiのフラッグシップ、ZZ-R1100。
それを制限無しでチューンアップした小野寺コンペのマシンに対して、こちらは元がネイキッドのCB。
排気量で200ccほど勝っているが最高速は出力ではなく空気との戦いである。
ソレを見せ付けたのが龍一のCBRであり小野寺コンペのZZ-Rでもある。
CFRP製のアッパーカウルとロアーカウルを纏ってはいるが空力的には圧倒的に不利である。

また、このコースは計測ラインに到達するまでに最高速に乗せるのが難しい。
最終コーナーを如何に無駄なくパワーをかけ、高速で脱出するか。それがカギとなる。

横島はライダーとしてまだ未熟だが、思い出して欲しい。
免許も持たない高校生が“音速の貴公子”に勝利した事を。
状況はそのヴィスコンティーの一件と似ている。
初めて走るコースに初めて全力で走らせるマシン、そして……

『さあ相棒! 俺達もコースインだ!』

人工幽霊壱号の代わりに“除霊対象”でもある剣が憑依している。
今回の相手は、まずは小野寺コンペ。そして自分自身……
後方確認の後、ゆっくりとピットロードからコースインした。



このトライアルは3周ほど周回するうちの第二周目に計測を行う。
1周目はウォームアップで3周目はクールダウンである。

『ブレーキを残して進入……そう! いい感じ。まだスロットルはオフ……』

剣のサポートを受け、初めて走るコースを快調に疾走する。

(試験場のバイクよりも乗りやすい!)

『あんなのと一緒にしないでくれ! ほい、シフトアップ!』

剣のサポートがあるとは言えサーキットを思いのままに走り抜ける。
その感触はエミのビモータさえ軽く凌駕する人車一体感。横島は酔いしれた。
気持ちは“浪速のペガサス”と呼ばれていた時以上に高揚している。

1300ccのビッグマシンを僅かな時間でここまでに仕上げ、
プロ顔負けのマシンセッティングを“実走無し”で行った龍一と剣。
知識と経験の不足を人並みはずれた順応力でカバーした横島。
そして、三人の想いをその身に受け、それに応えんとするCB1300改。
その四者が今一つになった。


カァーーーーーーーーーーン!


最終コーナーから立ち上がってくるハーフカウルを纏った鋼鉄の駿馬は、
モードをウォームアップからアタック「戦闘態勢」に移行した。



ハゴッ!!

走行風がカウルに容赦なく叩きつけられる。
ヘルメット上部を流れる走行風で揚力が発生しヘルメットを持ち上げようとする。耐えて伏せる。

9000rpm、10000rpm、11000rpm、12000rpm……

回転計の針は天井知らずに上昇していく。
水温、油温、油圧共に異常なし。コーナー手前150mで剣が“叫ぶ”

『フルブレーキ! 間をおかず3つ落とす!』

人差し指と中指で一気にガツンとブレーキを握り込み爪先をブレーキペダルに“乗せる”。

ギャッ! ドスッ!!

ブレーキローターが激しく発熱しフロントフォークがギシリと軋みフルボトムする。
目玉が飛び出そうなハードブレーキング。
後頭部を殴られた様な衝撃。
ステアリングに体重を乗せない様、タンクを膝で挟み込んでホールドし……

『……5、4! ……3!』

ブレーキを一定の力で握ったままスロットルを捻り、エンジン回転を合わせてシフトダウン。
特注の6速クロスミッションは淀み無く噛み合う。

オンフォンッ!  クァーーーーンッ!!

シフトダウンによって回転計の針は14000rpmまで跳ね上がる。
1300ccの市販インライン・フォア(直列4気筒)エンジンとはしては限界に近い超高回転。
剣との協力で組んだエンジンユニット本体は“もっと回せ!”と言わんばかりに咆哮をあげる!
それは“HANDAミュージック”とさえ呼ばれる澄んだ甲高いエグゾーストノート。
設計者の意図“情念”を引き出したワスプの、その部品加工精度の高さが伺える。

減速による激しいGが全身に襲い掛かるが目前のコーナーを睨んだまま耐え……

『ブレーキリリース! バンクッ!』

膝とブレーキを解き、踵でステップをホールドしたまま一気に右へ体重を“落とす”と鋭く車体が傾く。
ハードブレーキにもかかわらずステアリングをフリーにしていたからこその鋭いバンク!
更に追い討ちをかける様に重心−己の肉体−をコーナーの内側へ捻じ込み右膝を広げる。

ハングオフ。

1−2複合コーナー。
半径の異なる2つの円を連結した−奥に行くほど半径の小さくなる−テクニカルなコーナー。
その、カント(路面の傾斜)のついたコーナーヘ進入。
右膝が路面に接する。
その擦過感“現状を知覚”するとアペックスを睨む。

横Gと重力のバランス均衡点。
今度は全身を真上から強固に抑え付けられる様な感覚。
前後Gから上下のGに変化。
フレームが軋む。
頭がコーナーのアウト側へ持っていかれそうだ。
プラスGが容赦なく全身を攻め立てるが頭を下げそうになるのを必死に耐える。

『スロットルパーシャル(一定)』

閉じていたスロットルを剣から伝わる感覚に従って開く。
それにより更にGが強まる。
自分を中心軸にして車体がよりインへとラインを変える。
腰、路面を擦っている膝、そして全身で感じるG……
リアタイヤが微妙にスライドしながらも強大な旋回力を発生している事を感じ取る。
パワーロスを嫌って若干グリップを落としたミディアムコンパウンドのレーシングスリックタイヤ。
それに合わせて“味付け”されたCB改のサスセッティングで最高のパフォーマンスを発揮する。

二輪車は基本的には車輪が倒れる事で旋回を行う。

キャンバースラストと呼ばれる現象。

転がしたコインが傾いた方に起動を変えるのがソレだ。
更にトラクションをかけることでより強力な旋回力を発生させる。

リアステアと呼ばれる特性。

ゆえに「スロットルで曲がる」と言うのだ。
そして、バイクは腕力で乗る乗り物ではない。主に腰で操るのだ。
腕力に物を言わせてステアリングを無理矢理操作してもバイクは従わない。

『まだ……まだ……、オープン!』

クァーーーーーン!

1−2コーナーをクリア、フルスロットルで脱出。
横島の操作に忠実に反応しパワーを解放する。暴力的とさえ言える加速!
その瞬間、正面から頭部を殴られたような衝撃。
体ごと斜め後方に引っ張られる。
強大なトラクションを受け止めリアサスが沈み込む。
車体は完全に起き上がり、次のコーナーへ向けて直線的なラインで車速を乗せてゆく。

減速−旋回−加速

龍一のライディングは一連の挙動が流れる様なヨーロピアンスタイル。
よく言えば無駄が無く、悪く言えばメリハリが無い。
それにに対して横島のソレはメリハリを効かせたアメリカンスタイルのライディング。
悪く言えば“2進法”でONかOFFしかないが、良く言えば豪快で必要ならパワーで捩じ伏せる!
奇しくもそれは剣のライディングスタイルだった。



今日は本来のコースをショートカットする特設レイアウトが成されている。
1−2複合コーナーから続くS字コーナーをクリアするとすぐにショートカットする。
タイムトライアルではないのでインフィールドセクションを大幅に省いたレイアウトだ。
その後バックストレートときつい左コーナーを経てこのコースで一番大きな半径の最終コーナーとなる。
最終コーナーで如何にして速度を載せるかがカギとなる為、その手前の左コーナーが存外に重要となる。

否、全てのコーナーのライン取りは最終コーナーへのアプローチの為にどれ一つとて疎かに出来ない。
そのラインを忠実にトレースしていく。

「あぅぅ! せんせーカッコイイでござるよぅ〜(はぁと)」

「……イイ(ポッ)……はっ! 何を考えてるのよ私!!(汗)」

特設オーロラビジョンを食い入るように見つめる獣ッ娘が2人。

「へぇー、横島さんって何でも出来るんだなァ〜。こりゃぁバイクの方も弟子入りしようかな?」

『弟子入りって……魔理ちゃんのってスクーターじゃなかった?』

「あたしもいずれはバイクの免許取るつもりだよ。
 まぁ、いきなり杉山さんに弟子入りってのも良いけど……」

「俺? それなら自衛隊に来るかい? そうしたら単車以外にも色々教えるよ?」

ライヴ映像を見ながら新人勧誘をする公務員……
そして……

あぁぁぁん! 横島さはぁ〜〜〜んッ!!!!

両の拳を口元に当て、体をくねらせ、目がハートマークになって悶えまくっているヲトメが一人……

「「「『……(汗)』」」」

「この娘はこういうキャラなのか……」

引く事務所の面々。
新たな発見(?)をした龍一。
そしてあまりの豹変に呆然とするギャラリー……

ここに“黒絹”ならぬ桃絹が爆誕した。



『さぁお待ちかねの左コーナーだ! 慎重に、大胆に……今ッ!!』

ズキュッ! オン オン!!
一瞬のフルブレーキに続いて2速落とし。鋭く、しかし浅くバンクさせる。
スロットルのオン・オフで素早く切り返し最終コーナーに理想的なアングルで進入した。

『焦るなよぉ〜焦るなよぉ〜……じわりと、そう! その調子で慎重に……』

横島にはもはや剣に返答する余裕は無い。
既に頭の中は真っ白で、本能でマシンを操っていた。
とても免許取立ての素人とは思えないライディング。

その時、剣と横島の魂がシンクロし周囲の音と色が消える。

あらゆる情報が入力され、それらを淀みなく処理する。
リアの挙動を全身でセンシングしグリップ限界ギリギリのパワーをかける。
龍一の施したサスペンションセッティングによりフロントの接地感も薄れる事無くコーナーを駆ける。

だが、尻がむずがゆい。

リアのトラクションが不足しているのか、パワーがずるずると横に逃げる……。
不意に襲ったパワースライドを、瞬間的に着座位置をより後方に移す事で後方荷重を稼ぎ最小限に抑える。
長い最終コーナーを一瞬とも永遠とも感じながらクリア、フルスロットル!

一瞬フロントタイヤが宙を泳ぐ。

すかさずタンクに覆いかぶさりパワーリフトを鎮める。
特注クロスレシオの6速ミッションがパワーバンドを外す事無くスピードを乗せてゆく。

そのまま回転計の針は鋭く立ち上がり、


全てがモノクロームでスローモーションの景色の中、官能的なエグゾーストノートを咆哮させ……






































横島と剣は……






































一陣の風となった












































−六道女学院・高等部霊能科教室−

「氷室さん! 一文字さん!!」

学級委員を務める学友が大声を上げる。

「これはどう言う事ですの!?」

弓かおりが普段読む雑誌のバリエーション(?)の中にバイク雑誌は含まれていない。
にもかかわらず今その手にあるのは横島もよく読んでいる“月刊モーターバイク”というメジャー誌。
今月号は、キヌと魔理を含む5人がレーサーの様な出で立ちをした横島と共に表紙を飾っている。
それを突きつけ表紙を指差しながら血相を変えて二人の親友に詰め寄る。

「名門・六道女学院の生徒がこのような破廉恥な服装で! しかも全・国・誌ッ!!!!

やたらと“全国誌”の部分にアクセントが置かれた発言。

「はぁ!? いや、これも仕事だし……。ていうか破廉恥!?」

「え、ええ、仕事……でした……たぶん

魔理は自信満々に答えたが、キヌの最後の方は聴き取れないほど弱気なものだった。
まぁ、周囲が引いてしまうくらいトンでいたのだから無理も無い……

更に詰め寄る彼女の手にはまた別の雑誌
“月刊GS”
が握られていた。
霊能科の生徒なら少なからず読んでいる雑誌であるが、
こちらも特集ページに先日の“除霊”が特集記事として掲載されている。
記事の内容のその殆どは、横島と、浮遊霊になってさえ夢を追い続けた剣との交流についてだった。
その心温まる(?)物語と迫真のトライアル風景が詳細に記述されていた。

多少(かなり?)誇張されているが……

そして当然その結果も……

「ところで……」

「「?」」

「どうして私も誘ってくださらなかったんですか!?」

「「……(汗)」」

相変わらず雑誌の表紙をばしばし叩きながらの剣幕。

「私たちはお友達じゃあ無かったんですの!? だというのに! 私だけ……わたしだけ……わたしだけ……

どうやら“ほんのちょっぴり”羨ましいらしい。



所変わって中等部の教室……

「ねぇねぇ横島さん犬塚さん! これ二人でしょ?」

HR前の賑やかな教室……
いつものじゃれあいを演じていた二人に数人クラスメートが声をかけた。
女子中学生が読む雑誌と言えば少女漫画やファッション誌といった物が相場なのだが……
広げた複数のバイク雑誌にはそれぞれ先日のトライアルでの一コマが大々的に報じられている。

「いやぁ……照れるでござるなぁ♪」

「そんなの大した事無いわよ……」

二人の反応はお約束のものだが、シロはともかくタマモも満更ではないという顔だ。

『サーキットに女神降臨! チーム横島除霊事務所!!』

『可憐で妖艶! 清楚で華麗!』

『ワスプの最終兵器は5人の天使!』

目立ち方が半端ではなかったとは言え、ここまで褒められて嬉しくないはずは無かった。

「でも優勝できなかったから……」

「準優勝たって1位との差は殆ど無いじゃない! やっぱり横島先生ってすごいんだぁ〜!」

「そうでござる! せんせーは凄かったでござるよ!!」

シロが当日の状況を興奮状態で話し始めた。

「横島さんいいなぁ〜! 雑誌には載るしかっこいいお兄さんはいるし……」

横島がタマモの義兄で、高等部に外部講師として訪れているのは中等部の生徒も知っている。
中にはファンも居るくらいだ。

「かっこいい? ……どこが!?」

本心では鼻高々なのだがクールに受け答えする。

「僅差でも負けは負け。ま、結果が全てなのよ。結果がね……」

盛り上がるシロを尻目に、タマモはHR後の授業に備えて教科書を準備し始めた。














カァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!




HANDAのエンジンは排気音を“ミュージック”と評されている。
創始者が世界レースに打って出た当時から連綿とそのDNAは受け継がれ進化し続けている。
当時の英字新聞には『まるで時計の様な精密さ』と記されたその超高回転ユニットは後にF-1に受け継がれた。
ヴィスコンティーが心酔し、伝説となったその血統。

Powered by HANDA

他の追随を許さないその官能的なエグゾーストノートを響かせてグランドスタンド前を駆け抜ける。

猛然と加速し計測ラインを矢の様に疾走するその瞬間、横島とCB改を光の奔流が包んだ。
その姿は美しく、神々しく……見る者を釘付けにした。
まるで横島の背中から大きな光の翼が現れたかのようだった。

さながら飛び立つペガサスの様に……

『相棒、今まで世話になった。アリガトウ……』

横島が最後に“聴いた”剣の言葉。
電光掲示板には、小野寺コンペにあと一歩及ばなかった事実が表示されていた。
だが、横島の心意気と、本来立つはずだった舞台に立った事で全てが満たされたのだ。

光の奔流が収まると横島はなんとも言えない寂しさに襲われた。
祓うはずだった浮遊霊を依頼どおりに祓ったのだから何の問題も無いはずである。

−なのにこの喪失感は何だ!?−

剣が逝った今はサポート無しでコースを周回しているが、全く危なげが無い。
クールダウンとしての3周目だが、それとて尋常ではないスピードレンジだ。
ステアリング、シート、ステップ……それらから伝わる情報を無意識に処理し操作する。

それができている事にふと気付いて、その喪失感に納得がいった。
そして唐突に理解した。

剣は自らの持てる全てを横島に残した。
ほんの僅かの間だったとは言え、横島忠夫と御鶴木剣は紛れも無い師弟関係だったのだ。
それもただ教え、教えられる関係ではない。魂のレベルでの意識共有。繋がりはあまりに濃い。

−剣さん、アンタのこと忘れないよ−

“師匠”の冥福を祈りつつピットレーンに進入する。

「さて……」

グランドスタンドの観客やパドックのライバル達に握った片手を突き上げて応え……

「タマモにキツネうどんと稲荷寿司か……」

スピードを落としピットレーンを行く横島は一人ごちたのだった。








1台のヘビーチューンドバイクが市街地を颯爽と走り抜ける。

威嚇するわけでもないのにその存在感は圧倒的で威風堂々としている。
また市販状態では装着されていないカウルがシャープさをも醸し出している。
それは嫌なものではなく、むしろ引き付けられる様な……

ある種カリスマを持っているかの様だ。

「うーん……バイクで走ると何時もの“通勤路”もまた新鮮だな」

ジーパンとジージャンにブーツとグラブ。
フルフェイスヘルメットの下にはトレードマークのバンダナ……。

今日は六女での講義がある日で、法的手続きが終了したCB1300改での初出勤である。
装着していたカウルが“8耐”の名で有名なレースでの物のレプリカであった為、
灯火類は比較的簡単に装着できた。
保安部品を全て装着してもそのシルエットはトライアル当日の雰囲気を損なう事は無かった。
あとはワスプに預けて陸運局を通すだけだった。

運転中に集中を乱すのは危険極まりないのだが、
それでもこのバイクを入手するまでのいきさつに想いを馳せずにはいられなかった。

最高速を叩き出す為に寝食を忘れて作業に没頭し、死してなお己の夢を追い続けた“師匠”。
仕事の合間とは言え無償で手を貸してくれた兄と慕う遠縁の従兄。

それらの情念が染み付いたこのバイクに言い知れぬ愛着が湧く。

−そういえば−

と、取りとめも無く考える。
お札と封印の施されたカバーを取り払っていたにもかかわらず
トライアル当日は雑霊が集まってこなかったのが意外だった。
ある程度の事態を想定していたのだが全くの徒労に終わったのだ。

理由は幾つか考えられるが、剣が成仏した今となっては全て憶測の域を出ない。
それでも一つだけ間違いないと確信できる事がある。

負の感情が高ければ高いほどその場所にはそういった霊が集まりやすい。
逆説的に言えば、それだけトライアル会場が清浄な気に包まれていた事になる。

車検に対応する為の処置を施されたCBを走らせる横島は考える。

−単車乗りの世界は2つだけ。あちら側とこちら側、生死は無関係−

龍一の言葉が頭をよぎる。

元々人の生き死にや種族の違いに線引きをしない横島には至極当然の様に考えていた事。
だが周囲の反応に驚きと疑問を感じた事で今まで自覚していなかった事が分かった。
横島自身、無意識に線引きしていたからこそ驚きと疑問を感じたのだ。

雑霊が集まらなかったのは、バイク乗り達のその心根に因るのだと結論付けた。

「この経験をこれからの仕事と今日の授業に生かせれば良いな」

交差点を抜け、視野に入ってきた女子校へ向けてスロットルを開く。

「今日は雪之丞も来るんだったな。へっへっへ! 自慢してやらァ♪」


美神令子の弟子にして除霊事務所の所長。

人類唯一の文珠使いにしてアシュタロス事件の“影”の英雄。

そして……


「我は“バイク乗り”てね!!」


横島忠夫・19歳。

この年新たな肩書きが加わった。




今年も“暑い夏”が来る……
























       おまけ



『うふふふ♪ これも青春よねぇ〜♪』

事務所に届けられた山の様なファンレター。
ホームページにも設置以来最大数のメールが届いた。
今「横島除霊事務所」で検索すると非公認ファンサイトが雨後のタケノコの様に発生した事が分かる。

「机の会」(どこで調べた!?)

「自由陣営・氷室党」(公約は何だ!?)

「結んだ口は一文字!」(何だか意味不明)

「白・しろ・シロ♪」(雪国ですか!?)

「タマモたん萌え萌えCULB」(……もはや語るまい)

などなど……

ネーミングセンスもベタなモノから寒いものまで千差万別で・・・・・・
中には何時・何処で撮影したのかわからないが日常の姿までも掲載するページさえ出て来た。
もう下手なアイドル真っ青である。

『なになに……“貴方の視線に一目惚れ”ですって!? いッやぁ〜んっ♪』

各雑誌社経由で届いた自分宛のファンレターを読みながら……
その身をくねくねさせながら悶え、悦に入る机妖怪がいたとかいなかったとか……



「いや、ウチの所属とかそういうのじゃなくってですね……。は? 来年!?」

通常営業に復帰した都内の某有名バイクショップに

“あの5人を貸してくれ!”

という問い合わせが殺到した。
売り上げも比例して伸びてはいるのだが、
商品ラインナップのリクエストに“あの5人のポスターを!”といったものが急増している。
確かに宣伝効果を狙ってはいたが、よもやこれほど反響を呼ぶとは考えてもみなかった様だ。

うちは単車の店だぁッ!!!!

トッププライベーターの一人が店内の床を転げ回ったとか回らなかったとか……



「横島先生、大きなバイクですねぇ〜」

「良かったら、今度後ろに乗せて頂けませんか?」

某女子校職員室にて、校外講師に色目を使う女教師がいたとかいなかったとか……
更には理事までもが

「わ〜た〜し〜も〜の〜せ〜て〜♪

12の鬼を自身の影から覗かせながら迫っていたとかいなかったとか……

おキヌちゃん。敵はどんどん増殖している様だぞ!




















後書きにかえて


まずこの場をお貸しくださった上、多岐に渡りご指導下さった林原様に厚く御礼申し上げます。

また、この様な独りよがりな駄文に最後まで付き合って下さいました、
今この文面を読んでいらっしゃる方々にも深くお礼申し上げます。

そもそも切欠はキリ番を取った祭に「実はこんな電波を受信したのですが……」と
林原様に持ちかけたことによります。

リクエストの件に関して連絡した際、その「電波」について意見を下さった訳です。
その上もしSSにしたら読んで下さるとの事で、浮かれて調子に乗ってこんな物を書いてしまいました。

仕事でプレゼン用の文書作成というのはよくやるのですが、
読んで楽しむ為の“小説”などは今回初挑戦でした。
正直に言ってどこまで主張していいのか、何処を削るべきか、大変悩みました。
書いてて楽しかった反面、普段の仕事(CADで図面書いてます)の方が向いてると実感しました……



さて、作中に出てくるゲストキャラについても触れておきたいと思います。

まず高槻代表と小野寺代表のお二方は、
私や私の会社のレーシングカート部がお世話になっている実在の人物をモデルにしました。
無論“東西の重鎮”なんて事はありませんけど、口調や容姿はまんま拝借しました。

次に御鶴木剣ですが、私が事故後長期入院していた際に知り合い、
結局退院できぬまま世を去った友人が元です。
それに職場の同僚や私自身の性格や趣味を混ぜ合わせ「死してなおスッ惚けたお調子者」に仕立てました。
アホ丸出しな部分は私を知る人が見たら「おまえそのものだな」と言いそうです。

最後の杉山さんですが……
これは私の理想像と、私が今まで読んだ航空マンガや小説、単車・車マンガ、
及び銃器描写が多く出てくる小説からの良い所取りです。

鳴海章、新谷かおる、東本昌平、しげの秀一、楠みちはる、スティーブン・ハンターなどなど……

ただ“完璧超人”になってしまい過ぎたので「除霊はド下手」「趣味が絡むとお子様」という事にして
GS世界の住人とちょっと違う世界に生きる人としました。

最後に……
作中で偉そうな事を書いてる癖に、本当は単車に乗らなくなってはや10年経ちます。
実は私、10年前に起こした人身事故で左腕の機能全てを失った為に二輪免許は失効してしまいました。
相手も重度の後遺症が残る“障害者”になってしまいました。

ですが不謹慎ながら、気持ちは今でも“単車乗り”のままでいるつもりです。
なお、乗ることが許されなくなっても“作り手”として今現在も単車に関わっています。

もしこのSSを読んで「俺も単車に乗ってみようかな?」と思って頂けたら……
書いた私としてはとても嬉しいです。

そして単車乗りの私としては……















ようこそこちら側の世界へ!













お付き合い下さった皆様、本当に有難うございました!

AC04アタッカー































おまけのおまけ(爆)






「クラストップで総合3位の俺は扱いが小さいなぁ……」

PX(基地内の売店)で購入した雑誌を読む二等空佐は寂しそうに呟いた。
その後のACM (空中戦闘機動訓練) で一緒に飛んだ部下達は……

「また今日も派手に“被撃墜マーク”を付けて来たなぁ。……ん? おわッ!?」

とにかく疲労困憊してコックピットから出られないどころかしばらく口を利けないほどグロッキーだったそうだ。
派手な明細塗装のF−2B −ヴァイパー・ゼロ− の前後シートには……

口から半透明で当人の顔をしたヤバげなナニかが、にょろん♪とはみ出しそうになっている二人のパイロットが納まっていた。

グランドクルーが大慌てでその“ヤバげなナニか”を口に押し戻して薬缶の水をかける。
水をかけるその風景“だけ”見ればラグビーの様ではある。
さしずめ“命の水”とでも言うか……
その有様は“撃墜”された全ての機に言えた。

教導隊所属の猛者達の口から魂が抜け出そうとするというのはいったいどれほどハードな訓練だったのだろうか???



2機編隊で飛ぶ最後の小隊のうち1機が、何の前触れもなくキャノピーにペイント弾を喰らった。
食らって初めて“撃墜”された事に気付き戦慄を覚える。
どこから現れ、何時撃たれたのかさえ全くわからなかった。
実戦なら何が起こったか分からないまま死んでいた事だろう。
残った1機は慌てて翼を翻す。
どうやら“敵機”は昔ながらの戦法“太陽を背に背負って攻撃”をして来た様だ。

上空からのパワーダイヴによる一撃離脱。実に見事な攻撃。
既にミサイルは“撃ち尽した”のだろう。機銃による攻撃だった。
もう不意打ちはあり得ない。
次はお互いを視界に捕らえた格闘戦、ドッグファイトに持ち込まれるはずだ。
ドッグファイトは自機の方が“敵機”より明かに優位なはずだ。
相手が普通ならばだが……

「クソ! どこに消えた!?」

バックシートの教官パイロットはフロントシートのパイロットとの精神感応でお互いの意識をリンクして“敵機”を探す。
意識が肥大し視野が格段に広くなった様に感じる。
通常部隊のパイロットには真似の出来ない第二教導隊のパイロットだからこそ可能な広範囲有視界索敵。
霊感のアンテナを広げ360°全天をサーチする。

そして射抜くような殺気を感じ、その方向へ慌てて意識と視線を集中する。

「なッ!! 6オクロック・ハイ(後方上空)! 何時の間に!?」

上空から急降下で攻撃してきた“敵機”は自機より低空にいるはずだった。
だがすぐさま回避して“敵機”を探していたにもかかわらず何時の間にやら窮地に立たされていた。

何をどうやったのか“敵機”は自機の後方上空に占位していたのだ。
そして鋭く無駄のない動きで逆落としに“敵機”が降って来る。

パイロットはすかさずヴァイパーゼロをフラダンサーにする。
大きく腰を振り、狂おしく身をくねらせて追っ手から逃れる為に激しく空に舞う。
ストレーキ (機首の両脇から翼までを繋いでいるエラ) と翼端から激しくヴェイパーを曳きながらあらゆる機動で回避を試みる。
その間も精神感応による意識のリンクを絶たず、可能ならば“敵機”の動向を探り先を読もうとする。
だが、相手は考えを読ませず逆にこちらの考えを読んで先手先手を打ってくる。

逃れられない“死のフラダンス”を必死に踊り続ける。
アフターバーナーは先程から焚きっ放しだ。
それでも無理な急旋回によってどんどん「運動エネルギー=速度」と「位置エネルギー=高度」を失ってゆく。
だが“敵機”は全く無駄のない機動によって浪費するエネルギーは最小限だ。

高G旋回中にもかかわらずシートベルトをずらして振り返ると首が湿った音を立てた。
それでも何とかして後方を警戒していたバックシートのパイロットが悲鳴をあげる。

「駄目だッ! 喰い付かれた!?」

フロントシートのパイロットが限界の操縦でブレイク(回避機動)するが、信じられない事に華奢で細身な“敵機”から逃れられない。
格闘戦に秀でたF−16を開発のベースとして使用するF−2が、旧式かつ非力な“T−2高等練習機”に追い詰められてゆく。

「「クソッ! 振り切れないッ!! うおおおおッ!!!!」」

ヴォォム!!

赤い曳光弾の鞭がしなり、9G旋回中のヴァイパーゼロを絡め取る。
ご多分に漏れずキャノピーに着弾し、派手にペイント“被撃墜マーク”をぶちまける。



『メビウス1より各機へ……』

低く底冷えのする声が帰投中の全ての機の通信機に響き渡る。

『お前らT−2に墜とされるってのは何事だぁッ!墜とされたヤツとそのペア全員フル装備でランウェイ2往復だ!!』

水平飛行に移ったT−2のコックピットから不機嫌そうな声が送信される。

『自機の長所短所、敵機の長所短所、全てを利用し敵機の裏をかけといつも言ってるだろうが!!』

酸素マスクに内蔵されたマイクに怒鳴る。
既に後席員が泡吹いているT−2のコックピットの前席には「日本刀」とあだ名される“鬼”がいた。
憂さ晴らしとばかりに普段以上に容赦なく全てを“撃墜”し、容赦なくペナルティーを加えた。
そして一通り最新鋭の“敵機”を撃墜し終えたこの“鬼”は……

「魔鈴めぐみちゃん、か……」

訓練とは全く関係ない事を考え始めた。
フライトスーツのポケットから取り出した何かを眺めている。
どこか遠くを見詰める様な眼差しをバイザー越しにその“何か”に向けている。
それはトライアルの打ち上げで行ったレストランの、そのオーナーシェフのスナップ写真だった。
しばらく眺めていたが、やおらスナップ写真をポケットにしまうと再び“鬼”に戻る。

『Kisaradu Control. This is Mobius 1. Missions completion. R.T.B』
(木更津コントロール、こちらは"メビウス1" 任務完了、帰投する)

翼を翻し、燃料と模擬弾薬“MI-16 20mmPaint captive”を補給する為木更津基地へと進路を取る。

「次は何人かでも生き残れば良いんだがな……」

深く澄み切った湖水の様な鋭い目付き。
クロスチェックで状況を一瞥するとスロットルに着いた送信ボタンを押し込んだ。

『メビウス1より次のグループ!今がチャンスだぜ!死ぬ気でかかって来い!!』

まだまだ訓練は終わらない……


なお、魔鈴めぐみと杉山龍一の二人がどうなるのかはまた別のお話……

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