− エンジンの歴史は 回転数の歴史である −


本田 宗一郎


















   

















−栃木県・某所−


とある施設のゲートを軽トラックとワゴン車がくぐった。
ワゴン車にはバンダナを捲いた青年と数人の女性(と学校机)が乗っている。
そして軽トラックの荷台にはフルカウルのレーサレプリカバイクと……
お札を貼られ雑霊避けの模様が描かれたカバーを被った、もう一台のチューンドバイクが息を潜めていた。

今日、横島除霊事務所は総出でこの場所に来ている。
まだ少年の面影が残るバンダナの青年−横島−は車を駐車スペースに停め何故この場に立つ事になったかを思い返す。
彼の後ろでは事務所メンバーと、彼が兄と慕う青年が軽トラックの荷台で作業を開始した。

昇り始めた朝日を受けながら、

「地上最速、誰よりも速く……ってね。」

横島は一人そう呟いていた。





  風になれ!(1)

作:AC04アタッカー






−横島除霊事務所−


「このバイク、良いなァ〜……。でも高いなぁ〜(泣)」

気だるい午後のひと時を、

「な!?返せこの女狐!!それは拙者の分でござる!!」

「なによバカ犬「狼でござる!」のクセに!悔しかったら取り返して御覧なさいよ!!」

下校後の格好のままのシロタマコンビがいつものようにじゃれ合い、
りんごマークのPCへデータの打ち込みを終えた愛子は、そのじゃれ合いを眺めつつ……

『平和よねぇ〜』

のほほんと緑茶を啜って過ごしていた。

「でもやっぱり国産車ならこれくらいのが良いんだがなぁ……」

ここ数週間の間に入った依頼は……
知名度はそこそこに増してきたものの依頼のその殆どが“雑霊の除霊”もしくは“地鎮祭”であった。
横島除霊事務所の戦力を考えればたやすい仕事である。
いや、地鎮祭を請け負えるGS事務所も珍しいが……

「でも保険も車検も高いんだよなぁ〜」

所長の横島は“あの”美神令子の弟子であり、
業界誌『月刊GS』にピートや雪之丞らとともに“ニューエイジ”と紹介されるほどの実力もある。
それに加え、他の事務所がうらやむほど人材が充実している。

実家が神社で強力なネクロマンサーでもある氷室キヌ。
格闘戦に秀でた人狼の犬塚シロ。
狐火や幻術を自在に操る金毛白面九尾の生まれ変わりの義妹、横島タマモ。
そして最近新たに加わった“六女三人娘”のもう一人、一文字魔理。
錚々たる陣容である。

とは言え幾ら雑誌で紹介されても戦力が充実していても、駆け出しの事務所にそうそう大口の依頼が舞い込む事も無い。
かなりの保有戦力であるが、現状では余剰戦力となってしまいがちだ。

そんな訳で忙しいとはお世辞にも言えない今日この頃。

「うわ、サイレンサーだけで10万!?フルエキゾーストだと……げッ!」

なにより所長である横島自身、ついさっき購入したバイク雑誌を読みふけり何やらブツブツと呟いたかと思えば、
時折顔をしかめてうーんと唸ったりしている。
勤務中に所長自らが羽目を外しているのに、元同級生の従業員や義妹や弟子1号(?)がマジメにしている訳も無い……
しばらくすれば帰ってくるであろう恋人兼助手とその親友で弟子2号(?)という“六女三人娘”のうち二人も、      
終業時間までマッタリと過ごす事になるだろう。

さて、先日横島は大型二輪免許、いわゆる“限定解除”を取得した。
元々車にもバイクにも興味はあったのだが、学生時代は極貧ゆえに二輪免許取得など遠い夢であった。
しかし独立後は収入が安定し、今日の様に多少の時間もある。
早速時間を作って試験場へ足を運び、予てからの夢を手中に収めた訳である。

ちなみに4回ほど落ちた。

その後はバイクも買わずに雑誌を読み漁った。それしか出来ないからだ……

「はぁ〜……免許とってもバイクが無けりゃ意味ないっつーの!」

『欲しいけど手が届かないもどかしさ!それも青春よねぇ〜♪』

「ケッそんな青春はイヤじゃ!女の子と二人乗りして……背中にこうぺちょッと柔らかい感触が……
 むひょ♪俺が求める青春とはそんなウレシハズカシな青春じゃ!!」

そんな事を力説されて黙っている愛子ではない。

『うわっ!セクハラ発言よそれ!だいいち事務所のメンバーが黙ってないわよ?当然私も♪
 経営状況分かってる!?しょ・ちょ・う・さん!』

「うっ、しかしこれも男のロマンなんや!君よ俺で分かれ!ってもんや!」

事務所の移動手段にするには乗車定員が少なすぎるうえ趣味にするにはあまりに高価だった……
今の横島には、いわゆる“高嶺の花”なのだ。

もっとも、今の力説をキヌが聞いていたら趣味だとか高嶺の花だとか言う前に……
明日の朝日は拝めなかったかもしれない。

ともかく……
雑誌や知人から得た情報により、購入及び維持には少なくない金額を要する事を思い知らされたのだ。
だからここ最近「欲しい病」による独り言がエンドレスとなってる。
アパートでもこんな調子だとキヌから聞かされていたので最近口癖になった決め台詞で返した。

『幾ら唸ってもお金は湧いて出てこないわよ!?仕事入らないんだから!!』

そう言われては黙るしかない。

しかし幸か不幸か、身近に威風堂々たるバイクを所有する人物が結構いるのだ。
小笠原エミもその一人で、ビモータのレーサレプリカに乗っている。
1日好きに乗っていいという条件で、つい先日ピートの“捕獲”に協力もした。
その後ピートがどうなったかは関知しないつもりらしい。

まぁ車格を落とせば維持費も少なく済むのだが、人間の悲しい性か一度でも良いものを味わうと中々に格を落とせないものである。

「でもなぁ、一度味わっちまうと良い物が欲しくなるんだよなぁ〜。フィール・ザ・ウィンドつってな。ビモータ。えがったなぁ〜♪
 またエミさんにピートを売ろうかって……ん?」

何か聞き捨てならないことを口にしながら雑誌を読んでいた横島はスッと立ち上がりページをめくるその手を止めた。
その奇行(?)に、やれバカ犬のクセにだの拙者は狼でござるだのわーわーとじゃれあっていた二人(匹?)が振り返った。

「センセー!どうしたでござるか?サンポに行くでござるか?」

「バカねそんなはず無いじゃない!キャンギャルのグラビアでも見つけたんじゃないの?」

「そんな訳あるか!あ、いやサンポに行く訳じゃないぞ?て言うかマテ!『死者の怨念!恐怖のバイク!!』……だと?」

一応突っ込むが、その目は雑誌に向けられたまま動かない。
時節柄か、雑誌には良くある心霊特集が掲載されていた。
事故死したライダーが出る峠や持ち主が次々事故死するバイク等の記事が、事によっては大袈裟に掲載されている。
無論それだけならGS稼業の横島が驚きの声を上げるはずが無いし、
大抵が噂の域を出ないものばかりで事実を誇張していたりもする。

だがしかし……

「この記事……でも、これは……」

横島はある一つの記事に何か霊感に引っかかるモノを感じ、そのセンセーショナルに躍る活字を見つめていた。

その後、無視したかどで狐火に焼かれたうえ白い弾丸に有無を言わさず連行された。

更にその後、ズタボロの恋人を見た事務所の“食糧庁長官”に、油揚げ及び肉差し止めを言い渡されたケモノが二匹……


「「あおぉーーん!!(泣)」」


夜に並んで遠吠えていた。

血涙を流しながら……



−白井総合病院、内科外科病棟−


雑誌が発売される数週間ほど前

一人の青年が無念の内に息を引き取った。
名は御鶴木 剣(みつるぎ けん)、バイクショップ店員で享年23歳。
死因は悪性腫瘍、つまり癌であった。

彼の残した“物”はけして多く無い。
同世代の男性が持つであろう物とさほど変わりは無いが強いてあげるなら……
かなり手間をかけた大排気量バイクと幾つかのトロフィーがあるくらいだった。

ただ、物ではない“モノ”が残った。

息を引き取る際の言葉は……

「もう一度……走りたい……」

その最後の一言は、
その“強い想い”は……



何だかとってもステッキーに変な形で具現化してしまった……



−都内某所−


『もへ?』

目の前に佇む自分のバイクを前に、愉快な声をあげて剣の意識は覚醒した。

『俺、死んだんじゃなかったっけか?』

病院のベッドに寝ていたはずが、気付けば屋根付のいつものガレージにいた。
死んだという自覚はある。
だが、ナゼ住んでいたアパートの共同ガレージに寝転がっているのかてんでさっぱり分からない。

『死んだら成仏するんじゃないの???』

寝返りを打ったり、ボサボサの髪をわしわしと掻き毟ってみるがいまいちピンとこない。
体から伸びる半透明の“何か”がバイクに繋がっているのと、かざした手の向こうが透けて見える以外は
数日前と何等変わらないような気がする。
柱に掛かったカレンダーは“死んだ日”から2日ほど経過している事を伝えていた。
ヒトダマは浮いてないなぁ等とややズレた事を考え……

『うーん、どうすっかねぇ〜まいったねぇ〜。』

深刻さの欠片も無い独り言をブツブツ呟いた。
どうやら自分が浮遊霊になったとまでは気付いてないようだ。



その日、御鶴木夫妻が剣のアパートに訪れたのは息子の遺品整理の為である。
もともとあまり物を持たなかった息子の遺品は下手な引越し作業よりあっさり片付いた。

だが、ガレージのバイクはあっさりとは行かない。
さすがにこんな大きなものを簡単に処分は出来なかった。
まさか一緒に埋葬するにも行かず、また当然だが“一緒に火葬”という訳にもいかない。

生前に「理解ある人へ譲ってやって欲しい」と言われてはいるがその手の趣味人の間では、このバイクは知名度が高いらしい。
勤め先が有名ショップでもあり、更にそのショップのデモ車として雑誌に掲載されたのだ。
だから「自称・理解ある者」が多数現れる事は目に見えていた。

それに、息子が給料の大半と心血を注ぎ込んだ大切な遺品でもある。
他人の手に渡すのもスクラップにするのも躊躇われた。

困り果て、かといって放置も出来ず、取り敢えずは息子の勤め先だったバイク屋に預かって貰う事にした。
その搬送手続きの前に現物を確認する必要があるのでガレージに来たのだ。

そして……



聞こえてしまった。
聞こえるはずの無い声が……
それも映像つきでかなり鮮明に。

『ん?オヤジにオフクロじゃないか!おはよう!』

死んだはずの息子が声をかけてきた。

反応できない。
そして気分も悪い。

御鶴木夫妻はフリーズの後、口から泡を噴いて仰向けに倒れた



−航空自衛隊・木更津基地−


雑誌発売から数日後

先のアシュタロス事件後に新設された最も新しい基地。
バブル期に東京湾を一部埋め立てて作られた住宅予定地を再利用した基地である。
現在は、これも新たに組織された第二飛行教導隊と初等教育隊が展開している。

午前のフライトを終えちょうど昼食を取り始めたそんな折、教導隊飛行班長室の電話が鳴った。

「はい、班長室」

『二佐、外線でお電話です。ダブルワスプの高槻代表サンです。』

「お、サンクス。繋いでくれ。」

『お繋ぎする前に幾つか宜しいですか?』

「ん?なに?」

『模擬弾頭だからといって20mm砲弾をキャノピーに叩き込むのは勘弁して下さい……』

「撃たれる機動しか出来なかったお前が悪い。それでもアグレッサー(仮想敵役の教官機パイロット)か?それに……」

『……それに?』

「戦闘機を手っ取り早く墜とす方法を知ってるか?」

『……いえ。』

班長の口調から気軽さがスッと消え、底冷えのする冷徹な口調へと変わった。

「パイロットを撃ち殺す事さ。一発の20mm砲弾で墜とせる。」

普段の人当たりの良い雰囲気から、整備班のベテランはおろか教育隊の新人からさえ気軽に声をかけられるこの班長が……
実は米パイロットから「サムライ・ソード」の二つ名で畏怖される男である事は知っている。
事実、20マイル先の敵機を発見し、冷静沈着に編隊を誘導して米空軍機、海軍機、及び海兵隊機を全て打ち負かしている。
また激しい空中戦の高機動中でありながら正確無比にペイント弾頭をキャノピーに撃ち込むと言う
およそ人間離れした操縦技術と射撃センスを持っている事は基地の誰もが知っている。

『サムライ・ソード』

米兵相手に余興で見せた、濡れ俵6本を纏めて斬り飛ばした居合いの見事さと……
まるで鋭利な刃物の様なシャープな機動から付いた二つ名だと聞いている。

だが、日本人でありながら実戦の空を飛び、更には撃墜も経験しているらしいとの噂がある。
「サムライ・ソ−ド」と呼ばれるのは、その時のパーソナルマークが“日本刀”だったからだと……

一瞬、射抜くような殺気を感じ受話器を持ったまま息を呑む。

『そ、それとですね、ししっ私用の電話は控えて頂きませんと、その、あの、隊の規律が……』

部下の雰囲気の変化に気付き、慌てていつもの人懐っこい口調に戻す。

「うーん……。まぁ、硬い事言いなさんな。とりあえず繋いでくれる?」

取りあえずその場の雰囲気を繕い、木更津基地所属・第二飛行教導隊班長の二等空佐、杉山龍一(26歳・独身)は電話を受けた。

「もしもしこんちわおやっさん、俺のファイアーブレードだけど……
 は?剣が化けて出たぁ!?」

車検の為預けておいたバイクのことだと思っていた電話は思いもよらない用件だった。

「……いや、除霊なんて俺には無理だよおやっさん。……はぁ、まぁそうだけど、うーん。」

「と、とりあえず当てがあるからそのまましばらく待っといて!」

電話を切り、受話器を握ったままの龍一の視線は、しばらくの間天井を彷徨った。

行きつけのバイクショップでオカルト関連のトラブルが発生したという連絡だった。
普通民間のGSやオカルトGメンに連絡するだろうが、どういうわけか龍一に電話をしてきたのだ。
確かにGS免許を取得するにはしたが、それはあくまでこの隊において必要だったからだ。
職務上止む無く取得したのであって、もう二度と除霊などゴメンだと思うほど散々な目にあったのだ。

「……確か独立したとか言ってたな。」

一旦受話器を置くと、タバコに火をつけ手帳を開いた。

「ついでだから久々に顔を見に行くか。」

開かれた手帳のページには
“横島除霊事務所”
と書かれていた。



『ハイもしもし横島除霊事務所です♪』

営業ヴォイスで電話を受けた愛子が2つ3つ返答すると……

“ちょいちょい”

保留ボタンを押して今日も今日とて雑誌とにらめっこ中の横島を手招きした。

『ねぇ横島くん。杉山さんって人知ってる?航空自衛隊の……』

雑誌から目を離して愛子の方を向いていた横島は、慌てて手元の子機を取った。

「ハイ!お電話変わりましたぁ!!で、何かな龍兄ぃ!?」

その顔は喜色満面といったもので、普段の横島を見慣れてる愛子には信じ難いものがあった。

「愛子さん、お仕事の依頼ですか?」

午前中で授業の終わったキヌが、制服姿のままキッチンから人数分のお茶をお盆に載せて顔を出した。

『んー、依頼だと思うけど……。ねぇおキヌちゃん。杉山さんて誰だかわかる?』

男の電話を嬉しそうに受ける横島など見た事が無い。そう言いながら聞いてみる。

「杉山さん、ですか?前に一度だけ会った事はあるんだけど……」

「「『「何者(なの)(でござるか)?」』」」

「よ、横島さんの親戚の人で“みによんくの師匠”だって言ってた……かな?」

魔理にシロタマも、男からの電話をニコニコと受ける横島が珍しくて仕方ないらしい。

『親戚?横島くんの??ふーん……』

「何と!?せんせーの師匠でござるかッ!?して“みによんく”とはなんでござるか???」

「はぁ、アンタ何も知らないのね!?だからバカ犬「狼でござる!」なのよ!
 ミニ4駆っていうのはヨコシマの部屋の押入れにある車のオモチャの事よ!」

「自衛官でミニ4駆……ぷぷッ!」

お茶を啜りながら四者四様の反応を示すその間も、横島は電話の応対をしている。
なにやらメモを取ると……

「りょーかい!まっかせてちょーだい!!じゃあ早速連絡取るよ。ウン!
 あ、今度龍兄ィのバイクに乗せてよ!ほい!ほーい♪」

ピッ♪

子機を置くと一旦全員を見て口を開いた。

「霊車の除霊の依頼が入った。まず相手先に連絡を取ってから詳しく説明する。で……」

「「「『「?」』」」」

「何で皆してそんな顔してんの?あ、おキヌちゃん俺にもお茶頂戴♪」

「……あ!は、はい!今すぐに!!」

キヌは慌てて湯飲みを握り締めお盆を横島に差し出した。

「……お、おキヌちゃん?」

「「「『男に目覚めた((の))(か)(でござるか)!?』」」」

「違うわーッ!」

愛子、タマモ、魔理、シロのボケにマジツッコミで返す。
かくして運命の歯車(大袈裟な)は回り始めた。



−モーターサイクルファクトリー・ダブルワスプ−


横島とキヌはその日のうちに件の“連絡先”に足を運んだ。

第二次大戦中に米軍機が装備した2000馬力級エンジンの名を冠したマニア御用達の大きな店舗だが
どちらかと言うと“ファクトリー”というイメージより“町工場”の方がしっくり来る。
−国産車はもとより輸入車も手広く扱う−
そんな今時の小洒落たディーラーとは一線を画す、玄人受けしそうな“工房”といった雰囲気のバイク屋には……

『もけけけぇ〜!!』

一台のバイクを中心に雑霊がこんもり、ソレはもうこんもりと“いた”のだ。もうてんこ盛り。
霊団とまでは行かないものの、その数は先程からどんどん増えている。

今回二人で来たのは、西条がまたシロタマの超感覚を借りたいと言ってきたからだ。
魔理は見学を兼ねてそちらに同行した。

依頼主に電話で聞いた話からして悪霊と戦う羽目にはならないと睨んだ横島は西条の申し出を受けたあと、
キヌと二人で現場に訪れたのだ。

そして……
数日前に読んでいた雑誌の心霊特集。
店の名前は伏せられていたが、電話をかけた瞬間“ここだ”と霊感に引っかかった。

なによりこのダブルワスプは関東では知らぬ者の居ない有名チューニングショップでもある。
横島自身、純粋に興味を持っていた。

「えーと、おたくら横島除霊事務所の方?」

悪霊化していないとは言え、尋常じゃない数の霊が自分の店をエライ事にしているのに……
店主と思しき長身痩躯の中年男性がそれに動じた様子も無く横島達に声をかけてきた。

「わっ本物だ!は、はい。横島除霊事務所、所長の横島です!」

「助手の氷室キヌです。」

雑誌で見たチューニング界の“東の雄”が右手を差し出した。

「いかにも。ダブルワスプ代表の高槻洋三だ。よろしく。
 で、龍ちゃんの紹介で君たちに依頼しようと思うんだが……」

名刺を差し出しながら各々自己紹介をする。

−高槻洋三−

関東にこの人ありと言われるトッププライベーターの一人。
ワークスチームのメカニックから転進、この業界では五指に入る人物だ。

「こんな状況だからあまり悠長には構えてられなくってね。報酬ってのは幾らくらいなんだい?」

人に被害は出ていないが店はエライ事になっている。

「えーとですね、俺……我々は高価なオカルトアイテムはあまり必要としないので、
 まぁ相場よりはかなりお安くなるんですが……。ちなみに相場は大体このくらいで……。」

増殖中の雑霊を観察しながら指を3本ほど立てる。

「……そんなにするのかい?まぁこのまま放置する訳にもいかんしな。では印鑑持って来る。」

「承知しました。……で、おキヌちゃん、いけそう?」

対霊戦闘なら横島の独壇場だが、複数の雑霊を相手にする場合はキヌの方が優れている。

「大丈夫です。無理矢理祓っちゃう様な事しなくてよさそうです。」

霊障を眼前に捕らえ、落ち着き払った二人。
共に“あの”美神令子の下で様々な状況に立ち向かってきたからこそのゆとりだ。
それに加えてお互いを信頼しあっている。

「じゃあ、おキヌちゃん宜しくね。」

万が一に備えて右手に霊波の剣を、左手には数個の文珠を出現させる。

「はい。」

巫女装束の少女は落ち着いて返答し、独特な形状の笛を口に当てた。
数瞬後、辺りを心に染み入る笛の音が包み込む。
先程まで理性の欠片さえ見せなかった雑霊達が、満たされたような穏やかな表情で輝き始める。
それらは光の奔流となり徐々に空へと昇っていった。
横島は瞑目し、キヌの奏でる笛の音を聴いていた。



さて……
普通依頼を受ける場合、まず契約書に必要事項を明記し、署名の上捺印するのが常識ではある。
だが、事を急ぐ必要がある場合にそんな悠長なことを言ってられない。
ソレがたとえ横島たちにとって片手間で出来るような些細な事でも普通の人には手出し出来ない未知の領域なのだ。
美神がこのやり取りを見ていたら「甘い!」と一喝されただろうが、
だからこそ駆け出しの事務所でありながら着実に信用を得ているのである。

笛の音が止むと、周囲1ブロックにも及ぶ区域が神域のように浄化された。
だが、先程まで雑霊が固まっていたバイクに、1人(?)だけ成仏する事無く……
何か恍惚とした表情の青年の霊がキヌを見ていた。

「え!?」

『素晴しぃ……カンドーした……そしてカワイイ……』

ふよふよと漂いながら青年の霊はバイクから“魂の尾”を引っ張りながらキヌに近寄ってきた。

「え?えっ?えぇ〜ッ!?」

キヌの笛で成仏しなかっただけでも驚きなのに、何かただならぬ雰囲気で除霊対象が接近してきたのだ。
“魂の尾”を引きずっている辺りは生霊の様でもあるが……

『おぜうさん!お名前は?住所は?電話番号は!?いまカレシい……ふべら!!』

「こん悪霊が!おキヌちゃんは俺ンだ!!!」

固まったまま動けないキヌを庇う様に立ちはだかり、霊波の篭った“ぐー”を放つ。
それは狙い違わず青年霊の横っ面にクリーンヒットした。
悪霊(横島ビュー)は、まるで人身事故のように派手に回転しながら吹っ飛んだ。

「このコは俺のじゃ誰にも渡さん!さっさと成仏しやがれこの色魔!!」

さっきまで驚愕の表情で固まっていたキヌは、今度は横島の台詞で顔を真っ赤にして固まる。

「ほぉ〜、若いってのはイイねぇ♪」

「「あ!!」」

印鑑を持ってきた高槻の声で、今度は横島が真っ赤になって固まった……。

『うぅ、痛い……』

横島の渾身の“ぐー”から復活した青年の霊は頬を擦りながら起き上がった。

「「うそ……」」

ナンパに不死身。ソレは、今キヌの前で己の盾となった人物にそっくりであった……。



−横島除霊事務所−


「くっくっくっ!そりゃ災難だったな!」

『う……面目ないっす』

ダブルワスプから問題のバイクを引き取って事務所に帰ってきた。
バイクの搬送はワスプの軽トラックを借りた。

あのあと詳細に調べたところ、
悪霊化することは無いが余りに念が強い為に周りの雑霊まで引き寄せてしまう事が分かった。
またこのバイクが御鶴木剣本人の所有物であることも確認を取った。
そして……
3人の目の前で頭垂れうなだれているのが剣本人である事も分かった。

雑霊についてはしばらくの間は文珠で結界を張ったが、根本的な解決にはなってない。
今はバイク本体にもお札を貼り付け、雑霊避けの印を記したカバーで覆っている。
それこそ文珠で問答無用に祓う事も出来るだろうが、事情を聴いて思い留まった。

「まったく……。龍兄ぃ、笑い事ちゃうねん!」

まだ怒り冷め止まぬのか、関西弁が混ざる。

「まぁ……そりゃそうだな、くく! しかし往来で『俺の女に手を出すな』なんて……ぶ!」

『その、おキヌさん、済んませんでした……。
 あんまりにも素晴しい笛の音に感動したもんでつい……』

「い、いえ、そんな、別に怒ってませんから……」

キヌはキヌでまだ顔が赤い。普段好きだの愛してるだのと口にしない恋人の激白は、
それは直球ストライク空振り三振ゲームセット!だった様だ。

「つい!で女の子ナンパする浮遊霊なんてワイ初めて見たで!(真赤)」

訂正。怒り冷め止まぬ為ではなく、横島も照れている様だ。顔が再び赤くなる。

自身の抱える業務を大急ぎで片付けた龍一はダブルワスプに様子を見に来たのだ。
自分のバイクを車検に出しているというのもあるが……。
彼は東京湾沖の埋立地からはるばるやって来たのだが空路併用だった為早かった。
丁度よいタイミングで都内へ官僚を送り届けるヘリが居たので便乗して駆けつけたのだ。
その後バイクの搬送、つまり軽トラックの運転を引き受け現在に至る。
なお、彼自身のバイクCBR-900RRはたまたま陸運局に出した後だったため難を逃れた。

「しかし、先日は見舞い、その次は弔問っていう相手と、こうして会話をするとは思わなかった。」

「GSやってればそんな事もよくある話やって。それより龍兄ィ、そろそろ中に入らへん?」

時刻は夕暮れをとうに過ぎ、既に日も落ちた。

「おキヌちゃんはこの前紹介したけど、他のメンツはまだやったよな?」

『あのータダちん、俺は?』

「今日はオカGに“出向”してるけど、さっき『もうすぐ帰社する』って連絡あったし。」

『もしもーし』

「あ、そうそう。タマモは親戚になるんかな?一応俺のイモウトやし……」

『おーい!!』

「あと、俺にも弟子が出来たんや。前話した人狼のシロに、おキヌちゃんの親友で……」

『ターダーチーーーーーーン!!』

「あ゛ぁ〜ッ!タダちんて誰や!!あんたお札剥がしてもうたらまた雑霊まみれになるねんで!?」

『だからって野晒しはイヤン!』

「「「…………」」」

死んで浮遊霊になっても持ち前の個性は失われていない様だった。

その後シロタマ及び魔理を送り届けに来た美神母娘に剣を黙らせて貰うまで中に入れなかった。

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