オカルト研究会の謎


「じゃあ、ミステリ研究会の定例部会を始めるよ!」
 いつも通りのハイテンションで大げさに両腕を広げ、笹森花梨がそう宣言した。
 ぱちぱちぱち。
 興を削ぐようなわざとらしい拍手で応じる。テンポを少しだけ遅めに取り、なるべく空ろに響かせるのがコツだ。どのタイミングでどんな拍手をすればよいのか、俺は熟知している。可能な限り花梨の気を削ぎ、挑発し、尚且つ本気で怒ったり泣き出したりすることのないギリギリのポイントを、狙い済ましたキラーパスのように突く。こんなことができるのはこの学校には俺くらいしかいないだろう。何の自慢にもならないが。
 今はほとんど使われていない体育館の用具室。こんなんでも一応、学校の公認を得たミステリ研究会の部室だ。創立当初は半ば地下組織のようなゲリラ活動を行っていた……と言うより俺の場合は巻き込まれていたが、ある事件をきっかけに学校側から正規の部活動として承認される運びとなった。もっとも、活動内容は以前と大して変わっていない。
「もう、たかちゃんったら、もう少し真剣にやってよね!」
 腰に拳を当てて拗ねた表情でこちらを睨む花梨。そうそう、その顔が見たかったのだ。こういうちょっと怒った花梨を可愛いと思ってしまうあたり、俺もなかなか難儀な趣味をしているらしい。少なくとも花梨の相手として相応しいくらいには。
「で、今日の議題は何なの、会長?」
「え? あ、会長って私のことだね……」
 花梨は何故か「会長」と呼ばれると恥ずかしがってしまう。それはいつまでたっても治らないようで、俺はそれを知っていておちょくる。いつも振り回されているんだからこれくらいは許して欲しい。
 で、花梨はニヤニヤ笑っている俺を猫のような目つきでじろりと睨み、こほんと咳払いをすると突き抜けるような明るい声で言い放った。
「今回の議題はずばり、オカルト研究会。幻のオカルト研究会の謎に迫りたいと思いま〜す!」
「オカルト研究会?」
 って、あれか、あの噂の……。かつて来栖川家のお嬢様が所属していたという曰くつきのクラブだ。部員がいなくなって廃部になったはずなのに、今年のオリエンテーションでは何故か部活動紹介に掲載されていた。
「それって教頭の頭以上にアンタッチャブルなんじゃないのか? 下手したらタダじゃ済まないぞ」
 オカルト研究会という謎に満ちた部活については様々な噂が流れている。どれもおっかないものが多く、こればっかりは関わらない方が身のためだと思った。
「そこに敢えて挑むのがミステリ研でしょ?」
「うわっ!」
 いつの間にか鼻先に花梨の顔がどアップで迫っていた。
「たかちゃんも最近は頑張ってくれるようになったし、そろそろ頃合だと思うんよ」
 そう。今の俺は、花梨の詐欺まがいの手口で無理やりミステリ研究会に引きずり込まれた頃の俺とは違う。最初こそ仕方なく花梨に付き合っていた俺だが、どうやらそれなりに素質があったらしい。今では花梨に負けず劣らずミステリ研の活動に心血を注いでいた。おかげで学校側からの注目度も急上昇。あんまり嬉しくないが悲観してもいない。
 とは言え、さすがに今回の案件はヤバい。
 噂では来栖川グループが密かにオカルト方面に精通した人材を養成するためにこの学校に作った地下組織なんて言われていたりもする。まさかとは思うが、もしそれが本当だったら、そんなヤバい組織に手を出すのは危険極まりない。もう、停学とか廃部とかのレベルじゃ済まない。社会的に消されるかもしれないじゃないか。下手すればコンクリ詰めになって東京湾に沈んでいる可能性だってある。さすがにそこまではないと思いたいが、言い切るだけの根拠がないから不安だ。
「でもさ、さすがに命をかける必要はないんじゃないかな」
「何を言ってるんよ。宇宙人と戦うことに比べたら大したことじゃないよ」
 いつからミステリ研は宇宙からの侵略者と戦う団体になったんだ? いや、そうじゃない。いるかどうかもわからない宇宙人より生身の人間の方が危険に決まっているじゃないか。
「もしかしたら廃部になったとみんなが思い込んでただけで、普通に存続していたのかもしれないよ? もしかしたら目立たないだけでひとりくらい部員がいるのかも」
「それはないよ、たかちゃん」
 ちっちっちっと人差し指を振りながら花梨が言った。
「何で言い切れる?」
「だって去年の部活動紹介に載ってなかったのは間違いないもの。もし載ってたら私が見逃すはずないよ。たぶん入部してたと思う」
「でもオカルトとミステリって似てるようで違うよな。UFOとかUMAはオカルトじゃやんないだろ?」
「たかちゃんは甘いねえ。ゼロからミステリ研を立ち上げるのに比べれば、何となく似たようなことやってそうなオカルト研究会に入って乗っ取る方が手っ取り早いでしょ?」
「の、乗っ取るって……」
「少しずつ活動内容をミステリ側にシフトするんよ。私は好きなことができれば名前にはこだわらないから」
 ……まあ、人集めのためだけに「ミステリー」じゃなくて「ミステリ」を使うくらいだからな。効果はなかったけど。
「中学生の頃にこの学校の学園祭に来たことがあるんよ。その時にオカルト研究会が占いの館みたいなのをやっててね。結構本格的だったなあ。とんがり帽子に黒マントの魔女みたいな格好したお姉さんが、水晶玉使って占いしてて、それが印象的だった。だから、入学して部活動紹介にオカルト研究会が出てなくてがっかりしたんよ」
「へえ。もしかしたらそのお姉さんってのが来栖川のお嬢様だったのかもな。何でも毎日黒塗りのリムジンで送り迎えだったらしいよ」
 来栖川のお嬢様……お迎え……黒塗りのリムジン……。何かを思い出しそうな気がする。
『あんたなんか許さないんだからああぁぁっ!!』
 あ。今になって気づくなんて間抜けな話だが、あの時の声って……。
「由真だ!」
 突然大声で叫んだ俺を花梨は目を丸くして見つめている。やがて、呆れたように溜息をついて言った。
「たかちゃん、確かにオカルト研究会は未確認だけど、そういうのはUMAとは言わないんよ。あれはあくまで動物のことなんだから」
「そうじゃない。黒いリムジンだよ! そりゃ、来栖川家以外にも金持ちなんていくらでもいるかもしれない。でも、今時そんなもん校門の前に乗りつけるようなベタな連中はそうそういないって。由真は来栖川家と何か関係があるのかもしれない」
 一気呵成にまくし立てると、さすがの花梨も「ゆま」というのが未確認動物のことではなく人の名前だと理解したらしい。理解したらしいのだが……。
「『ゆま』って、誰かな?」
 ゾクリと冷たい声が聞こえたかと思うと、花梨は両手で俺の頭を挟み込んでいた。それもそっと手の平で包み込むような愛情表現とは程遠く、グーで左右のこめかみをしっかりとプレスしている。
「女の子の名前を呼び捨てにするなんて、そのコとはどういう関係なのかなあ、たかちゃん?」
 ……そうだった。こういう奴だった。
「あ、あの……その……笹森さん? 何か誤解してない?」
「ふうん、私のことは『笹森さん』で、そのコは『ゆま』なんだね……」
 もはや恫喝にしか聞こえない冷たい声が耳を打った。ある種のセミが鳴き喚く山奥の村で斧持って迫ってくる女の子だって、ここまで怖くはなかったのではないだろうか。俺の頭をがっちりとホールドしている花梨の両手に力がぐいっと加えられる。
 いたたた……時々思うのだが、花梨のどこにこんな力があるのだろう? もしかして花梨の皮をかぶったタマ姉か? いや、これがタマ姉だったらとっくに頭を割られてるはずだ、片手で。
「ささも……いや、花梨……さん? ちょっと痛いんだけど、離してくれませんか?」
「花梨というものがありながら……。たかちゃんの浮気者おおっ!!」
 ……聞いちゃいない。
「必殺! ゲンコツ山のぐりぐりアターック!!」
「ひぎゃあ!!」
 何をされたのかはよくわからないがとにかくこめかみに激痛が走った。
 あたたた……まだじんじんと痛む頭を抑えながら顔を上げると、花梨はこちらに背中を向けて大声を上げてわんわん泣いていた。
 と、体育館のほうから人のざわめきのようなものが聞こえ始める。運動部の活動が始まるようだ。
 ま、まずい。花梨の泣き声は外まで聞こえそうなくらいの大声。誰かが聞きつけて踏み込んでこようものならあらぬ誤解を招いてしまう。 俺はとっさに花梨の口を手で塞いだ。
「と、とにかく泣くのはやめて。俺が悪かったよ、花梨!」
 たちまち静かになる。恐る恐る花梨の顔色を窺うと、なんだか赤くなってもじもじしている。
「か、花梨、だなんて……そんな風に呼ばれると恥ずかしいよ」
 どうやら慌てた弾みでつい「花梨」と呼んでしまったらしい。今回はそれが結果的に事態を収拾したようだ。しかも後ろから腕を回して花梨の口を手で塞いでいるこの姿勢。見ようによっては抱きしめているように見えなくもない。そのせいかますます花梨は赤くなってもじもじする。「大胆だね」 なんて言いながら。
 ……単純な奴でよかった。


「というわけで由真、話がある」
「ちょっと、何が『というわけで』なのよ!? いきなり前に立ち塞がって何なのよ!?」
 翌日の放課後、俺たちは帰宅しようとする由真を待ち伏せた。左手を腰に当て、右手の人差し指をびしっと突きつける俺。いつもと立場が逆だ。うん、ちょっと気持ちいいかも。
 なんて悦に入っていると、
「答えなさいよ!」
 いきなり殴られた、グーで。まあ、チョキのピンポイント攻撃じゃなかっただけマシとしておこう。それはかなりヤバい。
「いててて……」
 痛む顔面を押さえながらかろうじて立ち上がる俺に由真の声が飛んでくる。
「何、また性懲りもなくあたしに挑戦しようっての!? いいわ、その挑戦、受けて立つ!」
「だからさ、話があるって言っただろ」
 そう言って敵意がないことを示そうとするが、由真は警戒を解こうとしない。俺は肩を竦めて軽く溜息をつき、話を進めることにした。
「仕方ない。単刀直入に聞くぞ。来栖川グループとはどういう関係だ?」
 来栖川の名を出した瞬間、由真の目に動揺の色が浮かんだ。ビンゴか?
 だが、それもほんの一瞬で、すぐに元の、いや、元の表情とも違った、感情のなさそうな冷たい表情になった。
「何の話よ? 来栖川家なんて私は知らないわ」
 普段の賑やかさからは想像もつかない抑揚のない声だった。初めて見る由真の一面に言い知れない不安がこみ上げてくる。
「そんなはずはないんじゃないの、長瀬由真さん?」
 俺の後ろにいた花梨が、前に進み出ながら不敵な笑みを浮かべて話しかけた。
「長瀬? 由真の名字は十波じゃないのか?」
 思わず零れた俺の疑問をあっさりとスルーし、花梨は続けた。
「あなたが来栖川家と何の関係もないなんてことはないわね。来栖川家の執事ダニエルこと長瀬源蔵さんのお孫さんのあなたが」
「ど、どうしてそれを……」
 あっという間にいつもの取り乱した由真に戻った。わたわたと慌てふためく由真の姿に俺は何故かホッとしていた。
「事前のリサーチは欠かさないんよ。ついでに言えば長瀬家からは他にも来栖川家の執事が出ているし、来栖川エレクトロニクスの技術開発者も輩出しているよね。来栖川家とは切っても切れない関係かな」
「何で昨日の今日でそこまで調べがついてんだよ。前から思ってたんだけど、笹森さんって何者?」
 さすがの俺もちょっと呆れ気味だ。いつの間にか俺の母親の口調まで調べ上げていた花梨だが、由真のことまでこうも簡単に調べてしまうとは。正直、探偵になれるんじゃないかと思う。
「で、聞きたいのはたかちゃんとの関係……は取り敢えず置いといて、この学校に通っていた来栖川家のお嬢様のことなんよ。オカルト研究会に所属していたお嬢様。もちろん知ってるよね?」
「し、知らないわよ。来栖川家と関係があるからって、そのお嬢様と面識があるとは限らないでしょ」
 露骨に花梨から目を逸らしながらそう答える。誰が見たって怪しい。花梨がその反応を見逃すはずもなく、自信たっぷりな唇の端を一瞬だけ吊り上げた。
「そう? オカルトにはまってたなんて、ずいぶんと変わったお嬢様だったみたいよね」
 花梨には言われたくないだろうなと思ったが、敢えて突っ込むのはやめておいた。
「オカルト研究会って、噂によれば来栖川グループの地下組織だったらしいね。裏では結構危ないこともやってたらしいじゃない? そのお嬢様もそういうことに関わっていたのかなあ」
「でまかせ言わないでよ! 芹香お嬢様はそんな方じゃないわ。ちょっと変わってるけどとてもお優しい方よ! ……わら人形だって作ってくれたし」
 ちょっと待て。そのわら人形って……。
「まさか、あの時の!?」
 俺の背中を冷や汗が伝っていった。以前、由真が俺を呪おうとして使ったわら人形。あれはオカルト通で有名な来栖川のお嬢様謹製だったってのか。よく無事だったな、俺……。
「やっぱり知ってたね♪」
 一方の花梨は由真の反応を聞いてにやりと笑みを浮かべた。
「あ。あわわわ……」
 由真は、花梨の口車に乗せられたことに気づくと、たちまち真っ赤になって腕をバタバタさせ始めた。
「これで勝ったと思うなよ〜〜〜!」
 結局、いつもの捨て台詞を残して走り去っていった。
 何の勝負だ、何の。
「勝った……」
 花梨もそこで乗らないで。
「笹森さん、こんなことばかりやってるといつか友達なくすよ」
 一応の忠告のつもりで言っておく。仮にも部活の仲間なわけだし、それ以上に、その……まあ、俺の彼女でもあるわけだから、身近な人間とはあまりトラブルを起こして欲しくはない。由真が身近な人間かどうかはともかくとして。
「え、友達? ああ、うん……」
 花梨はそこで戸惑いの表情を見せた。
「どうしたの?」
「何でもないよ。私は、たかちゃんがいてくれればそれでいいんだかんね」
 可愛いこと言ってくれるじゃないか。そう思ったから、花梨のくせっ毛の頭をくしゃくしゃと撫でてみせると、花梨は嬉しそうに目を細めて得意顔になって言った。
「ま、由真さんから聞き出したくらいのことはもう知ってたけどね」
「どうやって?」
「ダニエルさん、由真さんのお祖父さんね。あの人に聞いたの。ほら、校門に黒塗りのリムジンが止まってるでしょ。昨日、たまたま見かけたから声かけて話したんよ。由真さんと関係がなくても、来栖川家とは関係あるかもしれないでしょ。ちょっと見た目は怖そうな人だったけど、由真さんのこと を聞いたら嬉しそうに話してくれたよ」
「度胸あるなあ。その筋の怖い人だったらどうするつもりだったんだよ」
 すると、花梨は軽く考えるように間をおいて、笑顔で言った。
「そうだね、たかちゃんと一緒の時がよかったかも」
「いや、俺なんていても役に立たないんだから」
 そう言って苦笑いを浮かべたが、不思議と頼りにされるのはイヤじゃなかった。


「昼間っから何いちゃついてんだよ」
 耳になじんだ声が後ろから聞こえた。確認するまでもなく声の主は明らかだ。
「雄二、何か用か?」
 返事をしながら振り返る。そこにいたのはもちろん幼馴染の向坂雄二。
「オカルト研究会のことを嗅ぎ回ってんだってな、お前ら」
「何で知ってんだよ?」
「お前たちはある意味有名だからな。お騒がせコンビって」
 ……うう、否定できないところが辛い。以前は花梨が突っ走っても俺がストッパー役になっていたものだが、最近では俺もアクセル全開になることが多く、スピードを落としたら爆発するバスかクルーザーのように二人揃って暴走することも少なくないのだ。
「ま、それはいいとして。ちょっとばかし情報を提供しようかなと思って」
「何だ?」
 雄二の言う情報とやらがどれほど信頼に足るものかは怪しいが、取りあえず聞くだけは聞いておこう。今のところ、一分一秒が惜しいほど大層なことをしているわけではない自覚くらいはある。
 すると、雄二は辺りの様子を窺うようにきょろきょろと見回して、声を落として言った。
「クラブハウスの奥にな、今でもあるんだよ。オカルト研究会の部室が」
 すると、やっぱりオカルト研究会は現存しているのか。
「何でも来栖川家のお嬢様が卒業した後、部員がいなくなったらしいんだが、来栖川家のたっての希望で部室をそのまま保存することになったらしい」
 なるほど、そういうこともあるのかもな。この学校は来栖川グループから多額の援助を受けているという話だ。ならば、そのお嬢様のささやかな願いくらいは喜んで聞き入れるだろう。
「で、その部室なんだが、部員はいないはずなのに時々人の気配がするって噂があるんだよ。それに、夜になるとその付近で怪現象が起こるらしいんだ。だから代わりに使いたがる部も同好会も出てこなくって、結局そのままになってるって話だ」
 そこで花梨が意外な反応を見せた。
「へえ、向坂君も知ってたんだ」
「って、笹森さんも知ってたの?」
「当然でしょ。そんなの真っ先に調査済みなんよ。でも、一度行ってみたんだけど、ひっそりとしてるだけで何にも起こらなかったよ」
「そりゃ、昼間は人の気配がすることがあるくらいで普通の校舎だかんな。怪現象が起こるのは夜らしいから」
 ……ああ、この流れは先が見えてきたな。
「だったら、確かめてみるしかないね」
 やっぱり。溜息をつきながらも、すっかり慣れっこになってしまった俺の頭の中では、夜のクラブハウス潜入計画が整いつつあった。


 どんな学校でも、夜になれば独特の雰囲気を醸し出す。学校というのは日常の空間だが、それが昼間の活動を想定して作られているからだろう。夜の学校は基本的にその役目を止めた存在なのだ。同じ日常の空間でも家とはその点がまったく異なる。そりゃ、定時制というものもあるにはあるが、この学園にはそういう システムはないし、あったとしてもこんな時間までやっているものでもない。
「で、何で雄二とこのみまでついて来るんだ?」
「おいおい、俺らだってミステリ研の部員だぜ、一応」
「そうだよ。それに、誰もいない夜の学校って一度入ってみたかったんだよね。楽しみ」
 怖がりのくせに、俺はこのみに聞こえないようにそっと呟いた。
「向坂君もこのみちゃんも、無理して来なくてもよかったんよ。調査くらいなら私とたかちゃんの二人で十分なんだから」
 そう言う花梨の口調は何故か面白くなさそうだ。
「そうはいかねえよ。夜の学校で貴明と二人きりなんて、花梨ちゃんが危なくて仕方ないだろ」
「お前がいる方がずっと危ないと思うが」
 そう返しながら、一階校舎のとある窓に近づいた。ここの鍵は締まりが甘いのだ。ちょっと道具を使えば簡単に開く。ほら、この通り。
 念のため周りを見回しておく。もっとも、今日宿直で入っている先生は小心者なのか、かなり早い時間に見回りを済ませて後は宿直室にこもっている。だからこんな時間に校内をうろついていることはないだろう。どうしてそんなことを知っているのかって? それはミステリ研だけの秘密だ。
「ずいぶんと手馴れてるよな。お前たち、いつもこんなことやってんのか?」
「バカ言え。これがせいぜい五回目くらいだ」
「……」
「……」
「……」
「たかくん、変わったね」
「この色ボケ野郎が」
 ほっとけ。心の中でそう抗議するだけで精一杯だった。以前の俺がこんなことするような奴じゃなかったのは確かだし、色ボケかどうかは別として花梨の影響が大きいのも間違いない。だから、このみと雄二の発言は聞き流すことにして短く一言だけ呟いた。
「行くぞ」
 校舎に入ってしまえばあとは楽なものだ。クラブハウスは校舎とつながっており、その間に鍵のかかった扉はない。だから入り込むのは容易なのだ。
 昼のうちに確認しておいたオカルト研究会の部室へと向かう。足音が響かないように上履きは履いていない。画鋲でも落ちていれば怪我をしそうだが、まあ、大丈夫だろう。
 ギ〜〜、バタン。
 どこかで物音が聞こえた。ドアが軋みを立てて開き、また閉じるような音。
「まさか。あの先生がこんな時間に、よりによってクラブハウスなんかに来るわけ……」
 タッタッタッ。
 今度は誰かが走ってくる。
「隠れて!」
 花梨たちを急かし、階段の裏に身を潜めた。足音が近づいてきて階段を駆け上っていく。
「ふう、行ったか」
 足音が完全に遠ざかるのを確認して階段裏から出る。辺りを見回し、誰もいないのを確認して他の三人にも出てくるよう手を振った。。
 ギ〜〜、バタン。
 またしても先ほどと同じ物音。何だか不気味だ。しかし、こんなところで引き下がるわけにもいかない。先頭に立って階段を上っていく。
 階上に出た。この階の突き当たりがオカルト研究会の部室だ。慎重に歩みを進めていく。
 タッタッタッ。
 後ろから走ってくる音。
 しまった! 俺たち四人は慌てて隠れ場所を探すが、鍵のかかった部室ばかりが並ぶ廊下ではそんなものあるはずがない。その間にも足音は近づいてくる。
 タッタッタッ。
 今、確かに足音が真横を通り過ぎていった。
 しかし、その足音の主はどこだ? 人影らしきものはどこにも見当たらなかった。空耳なのか? それとも雄二辺りが仕掛けた悪戯か?
 ギ〜〜。
「!」
 俺たちは音の方向に一斉に注意を向けた。突き当たりにある部屋の扉が独りでに開いたのだ。
 バタン!
 ……大きな音を立てて扉が再び閉ざされた。
「で、で……」
「出た〜〜!!」
 俺たちは我先にとその場を逃げ出し、校舎への侵入を果たした窓まで全速力で走り、そのまま学校を後にした。


 後日、花梨の補足調査により、来栖川家のお嬢様が一年後輩の男子学生に、「幽霊部員」なるものの存在を話していたことが判明した。オカルト研究会がアンタッチャブルとして封印され、ミステリ研の活動記録から抹消されたことは言うまでもない。
 尚、例の事件の翌日、恐怖と寝不足でげっそりしていた俺と花梨は、由真の逆襲を受け散々な目に遭わされた。


     あとがき


 またしても新ジャンルに挑戦。林原 悠です。今回は初「ToHeart2」でした。一応、リクエスト可能ジャンルとして指定していますから。
 林原イチ押しのヒロイン、笹森花梨エンド後のお話です。制作コンセプトは「何だかんだ言って花梨に首ったけのたかちゃん」です。だってほら、花梨のふくれっ面って可愛くないですか(俺の趣味かよ)。
 第二コンセプトが「花梨VS由真」でした。謀略戦では、由真には勝ち目はないでしょう。考えなしに行動して失敗することも多いようですが、花梨が知能犯であることは疑念の余地がありません。
 勢いだけで書いたので、ツッコミどころは満載でしょう。例えば、花梨は由真相手に結局何をしたかったのかとか、ダニエルがそうそうペラペラ喋るものかとか。私自身、重々承知しているものも多々ありますが、それでもツッコミは大歓迎です。
 ところで、私にとってのTH2ヒロインの双璧が花梨と草壁さん。草壁さんの場合は声が佐藤利奈さんだからってのも大きいです。そんなわけで、機会があれば草壁さんのお話も書いてみたいと思っています。
 尚、このページの背景画像は「Heaven Stairs」で配布されていたミステリ研会員証です。サイトの移転に伴い、元のデータは削除されているようですが、こんなこともあろうかと頂いておきました。一応、フリー素材的な位置づけだったようなので、使用させていただいています。問題があればご連絡ください。

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