ケンカの理由


 隆が立ち去った後、僕は勢いよくその場に倒れ込んだ。白詰草の茂みがクッションになって衝撃を和らげてくれる。草と土の匂いが入り交じって鼻をついた。
 さんざん殴り合って、もうクタクタだった。頬はズキズキと痛むし、口の中には鉄臭い血の味がかすかに染みている。 
 しばらくの間、夕焼けの空をぼうっと見上げていると、不意に頭上を影がよぎった。
「憲一ったら、またこんな所に寝転がって。夕方になると結構寒いんだから、いい加減風邪引くよ」
「ゆかり!?」
 幼馴染みのゆかりが真上から覗き込む。一番見られたくない奴に見られてしまった。草の上に寝転がっていたことじゃない。ゆかりが「また」と言った通り、そんなのは日常茶飯事なのだ。見られたくなかったのは……。
「ちょっと、どうしたのよ。ケガしてるじゃない!?」
 案の定、ゆかりは目ざとく僕の惨状を理解したようだ。
「何でもないよ」
 慌てて顔を背けるが、時既に遅し。
「何でもないことないでしょ! そんなアザ作って……」
「こんなの平気だって。ちょっと、その……隆とケンカしただけだよ。大丈夫、殴られた分はちゃんと殴り返したから」
 ゆかりに同情されるのはごめんだった。僕は負けたわけではない。……勝ったとも言いきれないけれど。引き分け、そう、引き分けだ。
 しかし、ゆかりはそんな僕の言葉にかえって目尻を釣り上げた。
「そういう問題じゃないでしょ! ったく、隆も憲一も全然成長がないんだから。今度はいったい何が原因なの?」
「ゆかりには関係ないだろ!」
 僕にだって見栄くらいはある。ゆかりにだけはケンカの原因を知られるわけにはいかなかった。というのも、その……僕はゆかりのことが好きだったから。それは今この場にいない隆も同じなのだと思う。だから何かと張り合ってケンカするのだ。子供っぽいと言いたければ言えばいい。
 僕は気恥ずかしさから目深に被ったニット帽を引き下げる。ゆかりはそんな僕の行動を見逃さなかった。
「何か隠してるわね。柄にもなくそんな帽子被っちゃって。取りなさいよ」
「あ、ちょっと、やめろよ。何でもないよ!」
「いいから取ってみなさいよ! 別に減るもんじゃないでしょうが」
 ニット帽を引きはがそうとするゆかりに必死で抵抗しながら心の中で叫んだ。
 隆、額に落書きするならせめて「骨」じゃなくて「肉」にしろよな! あと油性マジックはやめてくれ!

お題「土」「夕焼け」「落」(初出:2008/10/23)

Index

よろしければこちらから感想をお願いします。(任意の項目だけで結構です)

名前(ハンドルネーム)

メール(書いていただければ必ず 返信いたします)

性別(秘密でもいいです)

男性 女性
年齢(秘密でもいいです)


読後の評価をお願いします


あなたはここの常連さん?


コメント(未記入でも可)


書き終わったら押してください→


海外ドラマ
広告 [PR] 再就職支援 スキルアップ アルバイト 無料レンタルサーバー