美神エアフォース
チャプタ−4「highway to the danger zone」
著・深井零


 翌日午前7時。
 令子たち3人はブリーフィングルームへ集合していた。
 おキヌを除く二人は普段はまだ寝ている時間なので、非常に眠そうである。
 特に横島の場合、昨夜は3人の相部屋となり、悶々として眠れなかったようだ。
 意識のはっきりしない2人に対しておキヌはすっかり目が覚めている。
「横島さん、大丈夫ですか?」 
「あ?・・・ああ。・・・」
「・・・横島さん?」
「・・・・・・・・」
 しっかりと船をこいでいる。

「放っとけばいいのよ。どうせいつもの事なんだから」
「でも・・・」
 令子は横島よりは多少元気なようだが、眠気が覚めない為か、微妙に不機嫌だ。
 そんな呑気な会話も、仕事となってはそうは言っていられない。
 早速仕事が始まる。

「おはようございます!」
 レイがブリーフィングルームへ入ってくる。
「さて、寝ぼけてる時間はありませんよ、これから今日の訓練を始めます」
「うい〜す・・・」
 寝ぼけ眼をこすりながら横島が応える。
「まずは昨日のおさらいから。・・・といっても、この状態ではまともに頭は働いていませんね。コーヒーを取りましょう」
 レイは苦笑しながらインターホンをとり、厨房につないだ。
「ブリーフィングルームだ。すまないが、コーヒーを四つ持ってきてくれ」
 そう言うとレイは受話器を置いた。

「美神さん、起きてください、美神さん!」
「・・・う〜ん、もう少し・・・」
 椅子に座ったまま、見事に寝ぼけている令子。おキヌが揺り起こそうとするが、令子に起きる気配はない。
 何かを思いついたように横島が立ち上がる。
「・・・目覚めのキス!」

「!!怪しい気配!」
 ぐしゃっ!!
「お目覚めでございますか・・・美神・・・さん・・・」
 口を尖らせて令子に覆いかぶさろうとする横島を瞬時に迎撃する令子。
 顔面にモロ拳を突き刺された横島はその場に崩れ落ちた。
「あああ、今度は横島さんが・・・横島さ〜ん、起きてくださいよ〜」
 おキヌは今度は横島を揺り起こしにかかった。
 横島は完全に白目を剥いており、本来ならば救急車を呼ぶ必要も出てくるだろう。
「え、衛生兵!」
「大丈夫よ、中尉さん。こいつはこのくらいの怪我はかすり傷みたいなもんだから」
 昨夜に続き、再び目の前で起こった事に狼狽するレイを他所に、令子は全く気にする様子さえない。

「痛てて、本気で殴る事無いじゃないですか、美神さん」
 自慢の回復力を発揮し、早くも復活した横島は、殴られた原因を作った事を棚に上げ、令子に抗議する。
「目覚ましには丁度いいでしょ?」
「永遠に寝てしまいますがなっ!!」
「まーまー、いいじゃないですか、お二人ともこれで目も覚めた事ですし・・・」
 おキヌが取りなすこの光景は、彼らには「日常」に過ぎないが、唯一の部外者、レイには信じがたい「非常識」だった。

「一体どうなってるんですか、横島さんの体は・・・」
 半ばあきれたようなレイが思わず言葉をもらす。
「こいつの体力は妖怪並みなのよ。ちょっとやそっとじゃ、死にゃしないわよ」
「妖怪は無いじゃないですか。今までだって何度死ぬかと思うような事があったか!」
「ヘー、あんたが死にそうに」
 令子が意地悪そうな目で横島を見る。
「挙げてきゃキリないですけど、生身で大気圏に突入した時はホントに死ぬかと思いましたよ」
「な、生身で大気圏に・・・!?」
 あり得ない生還例にレイは絶句した。

 大気圏への突入は、スペースシャトルでさえも機体を覆う耐熱タイルの微細な傷一つにも気を使わねばならないほどに過酷なものだ。
 隕石も、よほど大きなものでない限りその大半が燃え尽きてしまう。
 目の前に居る少年はそれを生身でやってのけたと言う。
 実際には竜神の装備と、マリアの冷却剤によって護られていたのだが、そんな事はレイには知る由もないし、生還した事は事実である。
『ペンタゴンのお偉いさんが聞いたら、絶対に彼を欲しがるな、きっと・・・』
 不死身の兵士、yokosimaの姿が脳裏に浮かぶ。
 とりあえず彼の平穏を思い、不死身にも等しい体力の事は忘れる事にした。

「レイ中尉、コーヒーをお持ちしました」
 ブリーフィングルームのドアが開き、当番兵がレイの注文したコーヒーを持ってきた。
 見知った顔を見て、不意に現実の世界に引き戻されたレイ。
「ありがとう、今の会話、何か聞こえたか?」
「?いえ、自分は何も・・・」
「そうか、ならいい」
「失礼します」
 部屋を辞した当番兵が彼らの会話を何も知らない事にレイはほっとした。
 日本配備の空母の兵士の噂話など、ペンタゴンはハナから相手にしないだろうが、火の無い所には煙は立たない。
 噂を聞きつけた諜報部が暗躍しないとも限らない。
 それではレイが横島の体力の事を忘れた事にする意味が無くなってしまう。
 とりあえず、彼の平穏は護られたという事だ。

「さて、眠気覚ましのコーヒーが届きました。時間が惜しいので、飲みながらで結構。昨日のおさらいを始めましょう」
 気を取り直したレイは3人にコーヒーを配る。
 おさらいの項目は、機への搭乗準備から、発進の手順まで。
 ロールプレイング形式でシミュレートしていく。
 3人は滞りなく発進までの手順をこなし、発進することができた事になる。
 たった数時間で詰め込んだ割には3人ともきちんと覚えている。

 特例により、今作戦での通信はほぼ全て日本語で行われる事になっている。
 簡単なコードだけをそのまま使用する事になった。
 英語を使用する頻度を極端に減らし、ほぼ全ての通信を日本語とする事で、訓練の期間を短縮する狙いが、早くも功を奏したと言える。
 
 昨日の座学の内容をきちんと吸収しているとなれば、早速実機に彼らを乗せる事にする。
 使用する機体はF-4ファントム練習機仕様である。
 フライトスーツに着替えた4人は格納庫へ向かう。

「あ、中尉!機体の用意はできてますよ。いつでも飛べます!」
「ありがとう」
 レイの姿を見つけた整備兵が敬礼する。
 薄暗い格納庫を、昨日と同じように奥へ進んで行く。
 30mほど先に、スポットライトを浴び、派手な機体が浮かび上がる。
「この機体が、本日の訓練に使用するF-4ファントムです」
 レイが見上げるその機体は、戦闘機に似つかわしくもなく白、赤、青などのド派手な塗装を施され、婚姻色を発する熱帯魚のようであった。
「ずいぶんと派手ね」
 あきれたように令子が言う。
「訓練用の機体ですからね、万が一の時には発見しやすいよう、あえて派手な塗装を施してあります」 

「なんか、この戦闘機、どっかで見た事があるような・・・」
 横島が首を傾げる。
 機首に青を基調としてコックピット下部に白、本体は赤を基調として上半分が白、主翼と水平尾翼が赤、垂直尾翼は白を基調に前縁を赤に染め上げた機体に見覚えがあった。
 
 横島の記憶が一機の小型戦闘機に行き着く。

「コ○ファイターだ!こいつ、○アファイターに似てるんスよ!」

 別の機体の世話をしていた整備兵の一人がにやりと口をゆがめる。

 不思議そうな顔をしたおキヌが横島に耳打ちする。
「こあ○ぁいたー・・・って、何ですか?」
「昔のロボットアニメの戦闘機だよ。劇中じゃ、箱みたいな形に変形するんだ」
「詳しいんですね」
「ガキの頃にビデオで見てからずっと好きだったからね。今でも、たまにプラモデルが欲しくなったりするよ」

 そんな会話を聞きつけたレイは、こめかみに青筋を浮かべ、つかつかと別の機体へと歩いて行く。
「リック!お前だろ!ファントムにあんなペイントしたのは!!」
「日本のお客さんが来るってんだ、それなりの機体でお迎えしなきゃな?お前が昨日になって急にファントムを使うなんて言い出すから徹夜でファントムを塗り直したんだぜ?おかげでロイ・フォ○カー機仕様にしたトムキャットが無駄になっちまったぜ」
「ッたく、お前は昔から日本のアニメが好きだったが、まさか空母の装備まで自分の趣味を出すとはな・・・」
 あきれかえったようにレイが肩を落とすが、リックと呼ばれた整備兵は悪びれる様子も無く、口元に浮かべた笑みを崩す事は無かった。
 これ以上は何を言っても焼け石に水。レイは諦めてすごすごと3人のもとへ戻る。
「はぁ・・・仕方ありません。こんな機体ですが時間もありません。すぐに飛行訓練を始めます」
 リックに「完敗」したレイはため息をつきながらファイルのフライトプランに目を落とし、3人を促す。
 すぐに整備兵数名がファントムに群がり、ドーリーで機体をエレベーターへ牽引して行く。
 左舷の艦載機用エレベーターに乗せられたファントムと一緒にフライトデッキへあがって行くレイ達。

「!」
 横島は空母の周りの風景が消え去っている事に気づいた。
 見渡す限りの大海原。
 キティホークはいつの間にか出航し、太平洋上に居たのだ。
「陸地が・・・無いんスけど・・・」
「訓練中、万が一にも人口密集地に墜落したら誰が補償を?幸いにも、我々は滑走路は自前で持ち歩けますので、訓練は太平洋上で行います」
「一週間、ずっとスか・・・?」
「いちいち横須賀に戻り、また太平洋に出てくる手間が惜しいですから。何度も繰り返しますが、我々にはもう時間がありません。可能な限りの滞空時間と経験を積んでもらう為、本艦は作戦終了まで帰港する事はありません」
 さらっと厳しい言葉を吐くレイ。
 横島の顔面から血の気が音を立てて引いて行く。
「イヤー!!一週間も船の上でなんか暮らせるかー!!!かえせー!!!もどせー!!!」
 お約束の拒絶反応。乗艦した時と同様、令子達から少し離れておがーんとやっている。

 直後、ばきっと言う鈍い音とともに、突然横島が静かになる。
 強烈な一撃を加えたのは、やはり令子である。
 顔面に突き刺さる見事なストレート。
「男のコなんだから、ちっとはシャキッとしなさい!」
 どくどくと血を流し、コミカルに倒れ込む横島。
 さすがに三度目ともなればレイも慣れたもので、多少の動揺はするものの、苦笑しながら様子を見ている。
 この程度の負傷であれば、次の瞬間には何事も無かったかのように起き上がってくる事をレイは学習していた。
 
「さて、のんびりとコントなんてやってる場合じゃありません、装備を確認してください。これより、いよいよ飛行訓練を始めます」
 艦首左舷側カタパルトの後ろにまで牽引されたファントムは燃料、模擬弾の搭載を始めている。
 令子達が各々の装備を確認する間、レイは機体の周りをうろうろしながら、機体外部点検を行っている。
「出撃前に必ず行っていただきたいのが、機体外部の点検です。ミサイルの固定は確実か、ロックの不完全なハッチは無いか、オイル、燃料のにじみは無いか、などです。どれを怠っても重大な事故の原因となります。ここに点検要領をリストアップしてありますので、次回は、各自で点検を行ってください」
 そう言ってレイはバインダーを3人に渡す。
 同時に、耳をつんざくばかりの轟音を立ててアングルドデッキ側のカタパルトから一機のF/A-18が発進した。
「あれは?」
「今回の訓練の随伴機です。散歩のお供だと思ってください」

『散歩・・・ねぇ・・・』

 レイの言葉に、3人は同じ光景を思い浮かべた。
 例の狼娘に軽く50kmは引きずり回される恐怖の超人散歩。
 幸いにも現在彼女は里帰りしていて事務所には居ないが、里帰り中の数日分をまとめた散歩が、今回の仕事を終えた横島に課せられるかと思うと少し哀れにも思える。
 鬱な表情を浮かべる横島を他所に、ファントムの発進準備は整う。
「中尉!発進準備よろし!発進願います!!」
 カタパルト要員の一人が敬礼し、発進可能である事を告げる。
「了解!では、美神さん、前席に乗ってください!今回は私が操縦し、あなたには戦闘機の飛行機動を体験してもらいます!」
 レイはヘルメットのストラップを締め直し、令子に搭乗を促す。
 ファントムの左舷から引き出されたステップを昇るレイを真似、令子も同じようにステップを昇る。

「飛行機の操縦法は教えた通りです。まず、手順にそってエンジンを始動してください」
 シートに収まり、インカムのプラグをコンソールに接続した令子のヘッドホンに、レイの声が飛び込んできた。
「エンジン始動チェック・・・オールグリーン!エンジン、コンタクト!!」
 事前にレイから手渡された手引書を睨みながら手順を進める令子。
 ジェットエンジンを始動する時の特有の甲高い金属音を発し、ファントムのノズルからオレンジ色の炎が吹き出す。
「エンジン始動確認!」
「結構!誘導員の指示に従い、ノーズギアをシャトルに接続してください!」
「了解、推力10%、ブレーキ、リリース!」
 エンジンの推力に押され、ファントムはのろのろと前進する。
 機体前方5mの位置で誘導員がパドルを振っている。
 誘導員の合図は“前進せよ”
 令子は機体をまっすぐ前進させる。

 やがて、ゴリッと音がしたかと思うと、誘導員は停止の合図を送ってくる。

「ブレーキオン!エンジン、アイドル!」
 カタパルト要員がシャトル接続完了を伝えてくる
「シャトル接続OK!発進準備完了!」
「結構です!では、これより発進し、飛行を体験してもらいます!ステッィクを後席に切り替えてください」
「了解、スティック切り替え、You have!」
「I have!」
「フラップ、フルダウン!」
 レイは発進の瞬間の低速でも揚力を得られるよう、フラップ(高揚力装置)を展開する。
 ファントムの後ろで、シールドが展開される。
 いよいよ発進である。

「オメガ1、発進を許可する!」
「了解、オメガ1、出るぞ!」
 レイはエンジン出力を最大に叩き込み、アフターバーナーに点火する。
 ファントムがグッとノーズギアを沈め、クラウチングの姿勢をとる。
「オメガ1、射出!」
 圧縮蒸気が一気にカタパルトに流れ込み、ファントムを背負ったシャトルを弾き出す。
 シャトルはファントムを引きずる形で加速を続ける。
 正規空母の蒸気カタパルトはおよそ4Gの加速を艦載機とパイロットに強いる。
 もちろん令子もその肉体を4Gの加速に翻弄される。
 時間にして1.5秒ほどの間であるが、令子には永劫に続くかと思われた。

 直後、急に体にかかるGが軽くなる。
 機体がカタパルトから離れ、加速度が低くなったのだ。
 それでもアフターバーナーを焚き、全力で加速を続けるファントムは軽く3G弱は搭乗者に強要している。
 ノズルを煌めかせながらファントムは青く澄み切った大空へと舞い上がって行く。

chapter5.「狂気」へ続く

「あれ、ここから私が美神さんたちに戦闘機動を披露するんじゃないんですか?」
 今回は文章が長くなっちゃったので次回まで我慢ね。
「行き当たりばったりで書くからそうなるんですよ、進歩がないなぁ」
 ばきっ!どがっ!ぐしゃっ!!めきっ!!
 ・・・びくんっびくんっ!
 
 ぜえっぜえっ!口の減らない邪魔者は片付きました。
 次回こそ空を飛びますので楽しみにしていただければ幸いです。

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