美神エアフォース
チャプタ−3「カレーライスは金曜にやってくる」
著・深井零


  5時間後、教室のように仕立てられたブリーフィングルームでの講習が終わった。
「これで用語と戦闘機の基本操作等の講習は終わりです。何か質問はありますか?」
「そうね、これといって質問は無いわ。」
 令子が3人を代表して答える。
 
 5時間、みっちりと講習を受けた為、だいたいの事は理解できた。
 おキヌと横島はさすがにぐったりとしているが、それでも「さっぱり分からなかった」という顔ではない。
「それでは、本日の訓練はこれで終了します。明日は午前7時から訓練を開始します。遅れないようにしてください。」
 そういうと、レイは3人をブリーフィングルームから退出させた。
 
 彼らは、一応空母のV.I.P.という事になっていて、来賓用として個室をあてがわれていた。といっても、個室がそうたくさんある訳ではないので、3人とも同じ部屋で、「雑魚寝」という事になった。
 艦長から指示されていた部屋を3人に与え、レイは自分の小隊の部下に案内させた。
(ようやく初日が終わったか・・・)
 自室に戻ったレイは、デスクチェアに腰を下ろし、ため息をつく。
 これまでに新兵訓練には3度ほど教官として参加した事があるが、全くの素人、それも民間人に訓練を施すというのは初めての経験だった。
 レイは、素人である3人にも簡単に分かるようにしっかりと噛み砕いて軍用用語を3人に教え込んだ。
 体験入隊という形であれば、適当にあしらって訓練という雰囲気を演出するだけで良いが、これから実戦に放り込まれる人間にいい加減な教育は出来ない。
 
本来なら、航空力学などの専門的な事も学んでもらわねばならないのだが、いかんせん時間が足りない。足りない時間は「体で覚える」事で賄うしか無い。
 したがって明日の予定は、実機に乗せての技能訓練だ。
 
いきなりド素人の3人組を単座式のシングルトムキャットに乗せるわけにはいかない。一応、練習機として改修した復座式のF-4ファントムでの同乗訓練を予定している。この機体は、日本の航空自衛隊の機体を参考に、後席からでも操縦できるように改造されているため、教官席の人間が意識不明で無い限り、墜落するような事は無い。
 とりあえず、後席に自分が搭乗し、前席の素人たちに操縦を体験させる。そういうプランだ。

 この空母に、シミュレータを搭載していればいいのだが、残念ながら、そんなに都合よくシミュレータなど用意されていない。

「全ては明日からだ。明日、簡単に今日の座学をおさらいして、それから実機訓練としよう・・・」
 レイは、明日の訓練予定とそのフライトスケジュール、本日の訓練のレポートをまとめる。
 書類を艦長に提出して今日の勤務は終わりだ。
 レイは基地内の民間レストランで夕食をとろうと、空母を降りた。

「あら、中尉さんじゃないの、どうしたの?」
 空母を降りたレイは、いきなりGS3人組とハチあわせた。
「私は勤務が終わりましたので、夕食をとりにいくのですが、あなた方も食事を?」
「ええ、空母の食堂じゃ、あんまりおいしそうなものは食べられそうにないもの」
「艦内の食堂だって捨てたものではありませんよ。海軍の選りすぐりのコックが腕を振るっていますからね。」
 レイは苦笑まじりにそう言う。
 
「私は気分転換をかねてレストランへ行きますが、皆さん、よかったらご一緒しませんか?この基地の中で一番うまい店を紹介しますよ」
 レイは3人を食事に誘う。
 
しかし、横島の反応がおかしい。心ここにあらずといった感じで、惚けている。口元は、何かをぶつぶつといっているようだが、レイにはよく分からない。
「?」
 不審に思っていると、出し抜けに令子の見事なアッパーカットが横島の顎にクリーンヒットする。続いて長い足に目一杯遠心力を乗せたローリングソバットが横島の脇腹、肝臓を直撃する。2ヒットコンボ。
「下らんことを考えるなと何度言わせる!?」
「ま、またいつものミスを・・・」
「あああ、横島さん・・・」
 
どうやら、令子たちと相部屋となった事で、少々「浮かれて」いたらしい。
 3人にはいつもの事なのだが、レイにはよく分かっていない。突然起こった一瞬の出来事に圧倒されるばかりである。
「さて、バカは放っておいて、ご飯にしましょう」
「は、はあ・・・」
「ま・・・待って・・・置いてかない・・・で・・・」
『横島さんのバカっ』
 呻く横島におキヌが冷たい視線を送る。


「ここがいいですね、この店のカレーがなかなか美味いんですよ。」
 一軒の店の前に立ち止まったレイが3人を促す。
 
カレーとはまた平凡な選択だが、日本人の夕食に一番なじむであろうメニューを選んだレイの配慮であった。
 早速店に入り、カレーライスを4人分オーダーする。
 喫茶店で出されるような典型的なカレーライス。ライスとカレールウが別になっているタイプのものだ。
 恥も外聞もなく、問答無用で横島はルウをライスの上に全部ぶちまけ、ものすごい勢いでかき込む。
「こらうまい!こらうまい!!」
 連呼しながら横島はカレーライスをかき込んでいくが、本当に美味いと感じているかどうか分からない。
 
どう考えても味わいながら食べている勢いではない。
「おかわり2つくれー!!」
「一つで十分ですよ・・・」
 あっという間に一皿を食べ終えた横島は早速追加をオーダーする。おキヌがあきれたように言うが、横島は気にもしない。
「ところで美神さん」
「何?中尉さん」
 何かを思い出したようにレイがスプーンを置き、令子に話しかける。
「日本では、毎週金曜日にカレーを食べる習慣があると聞いたのですが、週に一度カレーでは飽きないのですか?」
「え?何よそれ、そんなの聞いた事ないわよ」
 目をぱちくりさせる令子。

「確かに僕は上官がそんな事を話していたのを聞いた事があるんですよ」
「そんな習慣無いわよ。少なくとも、私の周りじゃそんな話は聞かないけど」
「そうでしたか・・・」
 レイが残念そうに言う。彼にしてみれば、ずっと気になっていた事なのだろう。

「金曜のカレーっていうのはですね・・・」  口を開いたのはおキヌだ。
「私が聞いた話では、昔の海軍の習慣だそうですよ。何でも、ずっと海の上でのお仕事ですから、月日の感覚が狂うのを防ぐ為に毎週金曜にカレーを出してたそうです」
「はあ、なるほど。それで僕の上官がそんな事を話してたんですか。その上官に聞いてもよく分からなかったので、一度日本の方からお話を聞いてみたかったんですよ」
 合点がいったレイは満足そうに言う。

「でもおキヌちゃんがなんでそんな事知ってんだ?」
 既に追加の二皿のうち、一皿目を平らげた横島が二皿目に襲いかかる前に、おキヌに突っ込んだ。
「そんな話を戦争のときに聞いた事があるんです。だてに300年も幽霊やってませんから」
「そうなのか・・・。でも、おキヌちゃんがくくられてたのはオロチ岳の奥だったよな、山奥でどうして海軍の事知ってんの?」
 早速追加二皿目をつつき始めた横島が、スプーンをくわえたままおキヌに問いかける。

「海岸沿いの子供がオロチ岳まで逃げてきたときにそんなことを言ってたんですよ。自分たちはロクに食べる事もできないのにどうして兵隊さんだけ毎週そんなにいいものを食べられるんだって」
「疎開・・・ってやつか。確かに、その頃はモノが今みたいには無かった時代だもんな。食べ盛りの子供がうらやましがるのも無理は無いか・・・」
「でも、欲しがりません勝つまではって言う標語だってあった時代でしょ?」
 一人ごちる横島に令子が口を挟む。

「皆さん、WWIIを過去のものとして考えているようですが、60年の歳月を経た今でもその亡霊は姿を変えて生き続けているんですよ」
 レイが真剣な面持ちで口を挟んだ。
「例えば、日本の近隣の一部のアジア諸国。彼らは過去の戦争によって未だに日本を敵視していますし、広島や長崎を焼き尽くした2発の原爆。今でも被爆者による反核デモが行われていますし、当時の闇の資金、M資金というものも存在が噂されています」
「悪霊よりタチがわりぃな・・・」
「しばいて片付くものでもないわね・・・」

「難しい問題ですが、我々の世代が向き合って行かなければならない問題です。戦争でないというだけの中身の伴わない消極的平和でなく、人類が憎しみ合わずに解り合える世界を作って行く努力こそが真の平和を作って行くものだと思います」
 レイは真剣な面持ちで話す。
 軍人だからこそ、思うことがあるのだろう。

「私は戦闘機のパイロットで、ことあらば、躊躇うこと無く人を殺さねばならない仕事をしています。しかし、私も機体も、限りなく飾りであることを望んでいます。・・・戦争を言い訳に人殺しをするなんてまっぴらです」
「・・・中尉は何故パイロットに?」
 令子が言葉を選ぶように尋ねる。
「・・・空にこそ、私の自由があると考えたからです。より高く、より速く。その夢は戦闘機でしか叶えることは出来ません」

「宇宙に上がることが一番の夢でしたが、私は優秀なパイロットではありませんでしたので、NASAのテストに合格できませんでしたから」
 食後に運ばれてきたコーヒーを啜りながら、レイは苦笑する。
「でも、NASAなら空軍の機関じゃないの?」
「確かに、私は現在は海軍に在籍していますが、当時は空軍に居たんです。しかし、海にも同じくらいの憧憬はありましたから、無理を言って海軍に転属したんです」
 何かを思い出しているような表情でレイは話す。
「ミーハーな話ですが、当時の主力戦闘機のF-14Aに乗ることに憧れていたんです。戦闘機の中でも、アイドルのような存在ですからね」
 レイの眼の色が少しかわる。

「広大な太平洋から、F-14Aとともに大空へ舞い上がる。最高のひとときですね」
「そんなもんなんすか?」
 横島の一言がレイの起爆スイッチを押した。
空母から飛び立つF-14Aの勇姿は美しささえ感じます!アフターバーナーに点火して大空を自由に駆け巡る!これこそが人の自由だとは思いませんか!?
「い、いや、俺はよく分かんないんすけど・・・」
 レイは「Oh!No!!」と言わんばかりの大げさなジェスチャーを示す。

「ふっふっふ。いいでしょう。明日の訓練はF-4ファントムでの実機飛行訓練を予定しています。イヤというほど、大空の素晴らしさを教えてあげますよ」
 怪しい光を放ち、レイの目は完全に据わっていた。
 明日もこうして無事に夕食をとることが出来ることを祈るしか無い横島であった。


『今回私セリフ少ないです・・・』
 おキヌがセリフの多いレイを怨めしそうに睨んでいることには誰も気がつかない。

chapter4.「highway to the danger zone」へ続く
 

Back/Index/Next

  よろしければこちらから感想をお願いします。(任意の項目だけで結構です)

名前(ハンドルネーム)

メール(書いていただければ必ず返信いたします)

性別(秘密でもいいです)

男性 女性
年齢(秘密でもいいです)


読後の評価をお願いします


あなたはここの常連さん?


コメント(未記入でも可)


書き終わったら押してください→


海外ドラマ
広告 [PR] 再就職支援 スキルアップ アルバイト 無料レンタルサーバー