美神エアフォース
チャプタ−2「シングルトムキャット」
著・深井零


 令子たちが事務所を出発してから数時間。
 彼女たちの目的地なる巨大な港湾施設、横須賀基地。
 アメリカ海軍が日本に駐留させる航空母艦・キティホーク。

 排水量 81,780t
 全長 318.5m
 飛行甲板全幅 76.8m

 洋上の陸とも比喩されるその巨大な船体を横須賀の港に休めるその広大な飛行甲板には艦載機は一機たりともいなかった。
 必要外の時にはその艦載機は滅多に飛行甲板には姿を現さない。
 飛行甲板を彩るものは、船体右舷に設置されたブリッジと、船体の周囲に配置された各種兵器やアンテナ類と、甲板でキャッチボールや日光浴等のんびりと休暇を楽しむ乗組員だけだった。
 照りつける太陽が甲板を灼いているが、潮風が吹き抜けるそこはどこか日本の夏とは違った雰囲気を持っていて、涼しげだった。
 そんな飛行甲板に一人の男が立っていた。

 中年とも言える年格好のその男は海軍の正装で、胸にやたらと派手な勲章をぶら下げている。
 不意に、彼の背後から駆け寄ってくる足音が聞こえてきた。
 短く切った金髪を逆さに立て、モスグリーンのシャツを着たその青年は正装の男の背後2mで立ち止まり、敬礼と同時に口を開く。
「艦長、ゲートから『お客さんが到着した』との連絡がありました。現在、海兵部隊の車でこちらに案内しております」
「うむ・・・そうか。・・・彼らがどれだけこの一週間でアレを使えるようになるかだな、問題は・・・」
「しかし艦長。14Sには、高度な戦闘用A.I.を搭載しているのでしょう?」
 艦長と呼ばれた正装の男は何かを考えるように空を仰ぎ、言葉を発する。
「・・・たしかに、パイロットなしでも、A.I.のみでの無人運用も可能なのだが、あくまで、それは通常の戦闘において有効なものだ。・・・今回の敵はロシアでもイラクでも、北朝鮮でもない。超常現象、ゴーストだ。機械に霊能力、シックスセンスはありはせんよ、中尉。それは、君ら現役のパイロットが一番よ く知っているのではないのかね?」
「・・・そうですね」

 中尉と呼ばれた青年は今回の作戦の敵を改めて認識し、静かに答えた。
 いかに有能な霊能者たちといえども、戦闘機の操縦については全くの素人。問題は山積みとなっている。
 とにかく、三機用意したスペシャル機、F-14Sシングルトムキャットを受領させ、可能な限りの慣熟飛行と、令子たちの実戦訓練。
 それに、空母での戦闘機運用にあたって必要な資格の取得、たった一週間で可能なのか・・・?
 艦長は頭を痛めていた。

  眉間を押さえながら、うめくように言葉を絞り出す。
「戦果もあげられず、多くの優秀なパイロットを失ってようやく得た結論が半無人機に素人を乗せる・・・。これほどの屈辱は、かつて無かった事だ・・・」
「艦長・・・今は、仕方ありません。もともと、幽霊とドッグファイトをするなんて、我々の仕事ではありません」
 そう中尉は言って、少し間を置く。
「我々海軍にも、オカルト専門の部隊が必要になるのでしょうか・・・?日本の自衛隊では、既にオカルト専門の部隊の設置計画が提出されたと聞きます。」
「そうかもしれん・・・」
 艦長は寂しそうに応える。

 納得がいかなかった。完全に機械化され、戦闘機のすべてが無人化あるいは遠隔操作化され、パイロットの大半が不要になる時代が来るならともかく、科学で 説明のつかない、霊との戦闘まで海軍の担当になり、訳の分からない部隊が必要になるなどと・・・。
 そんな仕事は全てICPOのオカルトGメンにやらせればいいのだと思っていた。
 やがて、令子たちを乗せたジープが一台、キティホークのタラップに乗り付けてきた。
 
「お待たせしました。ご連絡をいただいたGS、美神令子です」
 空母の巨体と陸をつなぐ長いタラップを上り、飛行甲板に姿を現した令子が自己紹介をする。
「お呼び立てして申し訳ない、艦長のジョン・ミラー中佐です。艦長とだけ、呼んでいただければ結構です」
 握手を交わす令子と艦長の後ろで叫び声が聞こえる。

「イヤじゃー!!戦争に行くなんて絶対イヤじゃー!!戦闘機に乗ると酔う体質なんやー!!!」
 どうやら言霊の洗脳が消えてしまったらしい横島。転落防止のため飛行甲板に張り巡らせたロープにしがみつき、予想通りの拒絶反応を示している。
「よ、横島さん、ここまできたらやれるだけやってみましょうよ。私たちだから呼ばれたんじゃないですか・・・!」
「そんな事言っても・・・」
 あくまでいやがる横島。おキヌの言葉に耳を貸さない。
 おキヌも言霊の洗脳は解けてしまっているのだが、ここまできたならと、覚悟を決めている。
「イヤやー!女性経験も無いまま死ぬのイヤー!!」
「死んだら一緒に迷いましょうよ、横島さん」
 三百年も幽霊をしていたおキヌは横島に微笑みかける。

「あの〜、話がイマイチまとまってないようですが、なにぶん時間がありませんので、こちらの話を進めさせていただいてよろしいでしょうか・・・」
 ごねる横島を見て、あっけにとられてしまった艦長はおずおずとビジネスの話を持ち出す。
「ええ、構いませんわ。あのバカは放っておいて、詳しい内容をお伺いしましょう」
 令子がやんわりと艦長と話を始める。
「そうですか、それではさっそくですが、あなた方に乗っていただく戦闘機をご紹介しましょう」
 一度言葉を切る。
「中尉」
 艦長は振り向いては脇に控えていた中尉を促す。

「ご案内します。こちらへどうぞ」
「彼は?」
「ああ、失礼しました。紹介がまだでしたね。彼はレイ・ジョンソン中尉です。Ω(オメガ)小隊隊長で、今回の作戦であなたたちの訓練の教官を担当します」
「レイ・ジョンソンです。よろしく」
「美神令子よ、よろしく」
 右手を出し、握手を求めてきたレイに対し、令子も握手で返す。

「これからは、この空母上では私があなた方の面倒を見るようになります。15日までの一週間ですが、しっかり頑張ってください」
 レイは、まず美神たちを歓迎し、激励した。
「さて、あまり作戦開始まで時間がありません。早速訓練を始めたいのですが、そちらの方・・・ヨコシマさんでしたか?よろしいですね?」
 事前に艦長から渡されていたファイルでぐずる少年の名を見、意思の確認をする。
 中途半端に戦闘機の訓練を受けたのでは、戦場ではただの動く的になってしまう。

『ファッキングニューガイ』(クソッタレの新兵)と言うやつだ。

「へ〜へ〜、もうどうにでもしてくれっ!」
 抵抗を諦めた横島は、投げやりにレイに言い放つ。
 決意も覚悟も無い表情だ。やる気が無いとも言ってもいい。
「では、まず格納庫から、見て回りましょう」
 深くため息をつき、令子たちを案内し始めるが、レイは正直、この三人が信用できなかった。特に、このヨコシマとか言うガキ・・・。
『頼りになるのか?ウチのベテランパイロットだって、あの旧式のゼロファイターに落とされたんだ、絶対無理だ。実戦までに脱落してくれれば、死なずにすむものを・・・』
「ん?なんか俺の顔についてんすか?」
「あっ!、いえ、別に・・・」
 ふと横島と目が合ってしまったレイ。思わず視線をそらす。

『何だって艦長はこんなやつを・・・』
 一発、このまるっきり気合いの入っていないジャップを修正(殴って気合いを入れる)してやりたいが、それは艦長を批判する事と同義となる。
 上官批判は重罪。
 営倉入りはごめんだと、思いとどまる。

『要するに、こいつを使えるように訓練すればいいのだろう?』
 そう思えばいい、そう思えばこのヨコシマとか言うガキがどうであれ、関係ない。
 ふと、レイはその歩みを止める。その少し先に、今回、令子たちが命を預ける相棒となる鋼鉄の海鳥がたたずむ。

 薄暗い格納庫の中、スポットライトを浴びて令子たちを待っているようだ。
「これが今回あなた方に乗っていただく、F-14Sシングルトムキャットです」
「・・・こんな旧型に乗れっての?ネイビーってのは、GSにこんな機体しか用意できないの?」
 令子が毒を吐く。令子はいわゆるミリタリーマニアではないが、F-14Aトムキャットが旧式の機体である事くらいは知っているらしい。

 しかし、これは厳密には30年前のF-14Aではない・・・。

「これは、ただのトムキャットではありません!トムキャットを改良し、さらに性能を向上させたスペシャル機です!!」
「でも、どう見ても、トムキャットはトムキャットじゃない」

 レイのこめかみに、何かが切れる音がした。

「いいですか、よく見てください!本来F-14Aは復座式ですが、このF-14Sではレーダー員を廃止し、単座式に改められています!レーダーは標準装備のAN/AWG-9から、さらに高性能なAN/APG-71に換装、ターゲットが霊体である事を考慮し、霊体レーダーをタンデム搭載!機銃弾は劣化ウラン弾から銀の機銃弾に変更!今作戦に使用されるAIM-54フェニックス、AIM-7スパローとも弾頭を全て精霊石に換装!」

 一気にまくしたてるレイ。ここまで専門用語を並べられたのでは、流石の令子も理解が追いつかない。専門用語のバーゲンセールと言った感じだ。

「・・・!!!・・・???・・・えっと、つまり・・・どゆこと?」
 令子は隣の横島に助言を求める。
「お、俺に聞かれても困りますよ!」
「私もです・・・」

 話を理解できず、困り果てている素人三人を気にもせずレイの演説は続く。

「加えて、レーダー員を廃止した代償として高性能のA.I.を搭載!無人での巡航、戦闘機動、発着艦が可能!型遅れであるハンデを克服する為にエンジンはF/A-22ラプターの推力偏向ノズル付きTF30-P-412Aをさらにオーバーチューンし、150%の推力を達成したものを搭載!機体重量も単座機とした事で約300キロの軽量化に成功!機動性の面でも、可変翼の利点を活かしつつ、F-16ファイティングファルコンの水平尾翼をカナードとして使用する事で、Su-37ターミネーターと、同等の機動性を確保しています!」

「はいはい、もーいーわ、とにかくすごいってのは分かったから、話を元に戻してもいい?」
 令子が顔に縦スジを浮かべてレイを止める。もううんざりと言った感じだ。

『車の事ならだいたい分かるんだけど・・・』

 令子の完敗であった。いかに令子のコブラやポルシェが高性能であっても、自動車は航空機になり得ない。
「ただのトムキャットではない事をお分かりいただけましたか?」
 長いセリフを息継ぎなしの一息で言い切ったレイは少々息を切らせている。
「つまり、GS用にチューンした空飛ぶ化け猫な訳ね?」
「そんなところです。化け猫は少々聞き捨てなりませんが」

『化け猫かぁ』

 化け猫と聞いて、ふと、昔助けた化け猫の親子を思い出した横島。

『あいつら、元気でやってんのかな?』

 横島の独断で親子を見逃したものの、その所為で億単位のギャラをフイにした令子から、半殺しの刑に遭った事を思い出す。
 しかし、横島の感傷とは無関係に、今回の仕事は進行していく。
 令子の声で現実に戻る横島。

「オーケー、それじゃ早速訓練とやらを始めましょうか?」
 精霊石や、銀の銃弾と言った令子の分野の専門用語が含まれている事を思い出した。
 いかなる道具を用いようとも、これからすることはいつもと同じ除霊作業だ。
 未知の道具には慣れれば良い。

「そうですね、訓練を始めましょうか。まずあなた方には戦闘中の最低限の作法だけ知っておいていただきます」
「作法?戦争にそんなめんどくせーモンがあるんすか?」
 横島が訝しげな面持ちでレイに質問する。
 質問というよりは、作法と聞いて面倒くさいものに対する拒絶反応だと言えるが。
「作法と言ってもそんなに難しいものではありません」
 レイが説明を始める。

「例えば、戦闘中の通信において、必要な言葉を暗号化した会話ですね。敵機を発見した場合、タリホーと宣言する、戦闘開始時にはエンゲージと宣言する、ミサイル発射時にはミサイルの種類によってフォックス1やフォックス2、フォックス3と宣言する、作戦を終了して基地に帰投する際、RTBと宣言する事などですね」

 レイは、指折り数えながら、ゆっくりと、一つづつ確認するように話す。
「早い話が、戦闘中のお約束事みたいなものです」
「詳しい事は後ほど講習を行います。とりあえず、ミッションブリーフィングルームへどうぞ」
 令子たちはブリーフィングルームへと通される。


 ブリーフィングルームでは、訓練にあたっての初歩的な講習が行われるのだが、その前に、令子たちは、耐Gフライトスーツを渡され、着替えるように言われ た。
 それだけで30キロもの重量となる耐Gフライトスーツに、少しでも慣れておく為だ。

「美神さ〜ん、やっぱりこの服重いです〜」
 更衣室から出てはきたが、半泣きになっているおキヌ。

 耐Gスーツの重さに耐えかね、よろよろしている。

「そうね、重いし、胸がきついわ。中尉さん、もっと軽くて大きいのは無いの?」
 いかにアメリカンサイズと言えども、男性用のフライトスーツでは令子のバストをゆったりと包み込めなかったようだ。
「すみません、そのサイズが、この空母にある一番大きなスーツになります。」

 レイは、一度言葉を切り、困ったような顔で続ける。

「丈が大きいだけのものならまだありますが、胸回りはさすがに・・・」
「そう、しかたないわね」
 元々男性パイロットしかいないこの空母で、それ以上は無理な注文だった。

 そして、着替えをすませた女性二人の前には、ボロ雑巾のようになって床に転がる横島が・・・。

「ああ・・・、横島さん、大丈夫ですか?」
 おキヌが心配そうに横島の顔を覗き込むが、横島は反応しない。

 ただの屍のようだ。

 チャプタ−3「カレーライスは金曜にやってくる」に続く

See you next time!


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